長話1 「マイルス・アヘッド」と「ブルーに生まれついて」

 映画や小説の感想といったものが全然書けてない。長くなるから。久々にちょっと数回連続で書きます。

 奇しくも同時期に2本のジャズトランぺッターの伝記ものが公開された。これは面白い。
 共通点もあり、当然異なる点もあり。まず共通しているのは、
1.長いキャリアの中の停滞期にスポットを当てていた。
2.厳密に事実に沿って描くのではなく、ふんだんに作り手の妄想を盛り込んでいた。ということ。
 しかしその妄想の質や物語の構造は、当然両社では相当異なる。
 マイルス・デイビスを描いた「MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間」は、アクションものというか、少年マンガ的というか。「盗まれたテープ」という架空のシチュエーション、更に架空のバディ的存在。とても面白い。ただし、主人公は全くマイルスには見えない。これはしょうがないですよね。実在の人物を他人が演じるとき避けられない部分。本人をよく知る人からは絶対に言われる。声はそっくりで驚いた。しぐさなどもそっくりだそうで、大変な熱演なのだとは思う。
 チェット・ベイカーを描いた「ブルーに生まれついて」では、対照的に少女マンガ的と言おうか。架空の恋人(これが理想的な献身タイプの女性)を登場させて、ダメダメ男を悲劇の主人公に見事に仕立てて感動させてくれる。
 どちらも映画的試みとして面白いと思う。が、ふと思う。別に無理して実録ものにしなくてもよいのでは? と。というのも、随分以前の映画「ラウンド・ミッドナイト」が脳裏に浮かぶからだ。これは僕がジャズに興味を持つきっかけになった映画。実在のジャズプレイヤーをモデルとしつつ完全なフィクション。これが素晴らしい。出演者は本物のジャズミュージシャン。演技を超えたリアリティが迫力を、味わいを最大限に発揮している、大好きな映画。
 このサントラにチェット・ベイカーの演奏が一曲だけ入っていて、僕にとってチェット・ベイカーとの出会いにもなった。
 ということで次回につづく。