まだまだ伸びしろがある? 007

 刊行時話題になった小説版新作『007 白紙委任状』を読んだ。作者ジェフリー・ディーバーのこれまでの作品は未読。ただ海外小説に疎い僕でさえ名前は知っているという、ミステリー界の人気者。どんでん返しの連続が持ち味とのことで、その個性は本作にも活かされていて面白かった(ただディーバーファンからの評価は二分しているようですが)。
 で、面白いなと思った点が作品そのもの以外にもあって、それはこの007シリーズにもまだまだ新たな魅力を発揮する余地が随分あるんだな、ということ。
 本作のジェームズ・ボンド像は、設定・外見の特徴等、イアン・フレミングの原典に実に忠実。舞台を現代にしているゆえの変更はあるものの(悪役像なども含めて。その慧眼ぶりも大変面白く読んだ。)、レギュラー出演陣もちゃんと忠実に登場する。映画シリーズでの翻案ではなく。
 ただ、ボンドの人柄というかキャラクターは、フレミング原典のそれとも、映画シリーズ歴代俳優のどれとも違う。とても内省的で紳士だ。それが新鮮で面白い。役者としてディーバーはガイ・ピアーズを挙げているとのこと。そういう映画版も見てみたくなる。ストーリー展開も映画版の王道とは違い、黒幕の正体や事の真相がわからない状態で進む緊張感があり(映画では大抵敵は自明であり、ボンドの正体も敵にはたいがいさっさとバレている。)、こういう展開の映画版もアリだよなあ、と、つくづく。
 現在進行中のダニエル・クレイグ版映画はそれとは全く違う、しかしとんでもなく魅力的な展開をしているようなので(後述)、それはそれで大いに楽しみにするとして、あと二作あると言われるクレイグ・ボンドのその後で、この小説のような新たなシリーズ展開も可能なのだと思うと、一時期マンネリ化してシリーズ続行も危ぶまれたこともあったのが嘘のよう。まだまだ楽しませて貰えそう。