初めて読んだ、マシスンの長編

『縮みゆく男』
 有名な作品ですが未読でした。新訳文庫に町山智浩氏の解説が付く、というのに釣られて買ってしまいました。http://www.amazon.co.jp/%E7%B8%AE%E3%81%BF%E3%82%86%E3%81%8F%E7%94%B7-%E6%89%B6%E6%A1%91%E7%A4%BE%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC-%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%B3/dp/4594068766/ref=pd_ybh_2
 最初は進みませんでした。あまりに辛い仕打ちに遭い続けるので、読んでいる方の気持ちも塞いできて。しかしだんだんと引き込まれていき、終盤はいっきでした。
 読了後振り返ってみれば、実に見事な構成だったと思います。時系列順に描かれていれば、こういう引力は働かなかったかもしれません。冒頭、海上で不審な霧に包まれた後、いきなり次のシーンでは巨大な蜘蛛に追われる描写になる。既に数ミリの体になってしまって地下室から出られずにいると判るには暫く読み進めねばなりません。その後折々に過去のだんだん縮んでゆく場面とその苦悩が挿入され、殆ど最後の方になって、どうして地下室に閉じ込められてしまったかがわかります。
 本の解説等で書かれているので言わずもがなですが、この「縮みゆく」という設定は象徴です。仕掛けはSF的でありながら徹底して日常の中で繰り広げられるところが恐ろしい。そして、主人公の特殊な境遇が、それゆえ我々あらゆる読者自身の恐怖であるとわかります。作品世界とは国も時代も違いますが、社会生活・家庭生活を営む中でじわじわと感じている閉塞感や切迫感、それぞれの中にあるいろんなものに引き当てられるから怖いのでしょう。抽象的な言い方になりましたが、例えば経済的な不安や、家庭内での父としての存在感の希薄さなど、それこそいろいろです。
 過去二度の映画化作品も観ていませんが、興味が湧きます。また、作者が三度目の映画化に取り組んでいたといいますが、作者が亡くなってしまい、その企画はどうなってしまうのでしょう? 然るべき人が遺志を継いで、完成させて欲しいです。