利休三昧(三)

 利休の若き日まで描いたという点、現在映画化が進んでいる山本版(7)『利休にたずねよ』が、もちろん秀逸。利休切腹の日を冒頭に描き、そこからどんどんと時系列を遡って描く、という構成で、一種ミステリー的視点を取り入れた作品。ミステリーとなればオチをばらす訳にはいかないが、この作では、利休美学の総て、そして自ら死を選んだ理由が、若き日に収斂していくのが快い。
 切り口が個性的なのが澤田ふじ子版(6)『利休啾々』。利休の木像を彫った仏師の視点で描いている。この木像は利休有罪の道具に利用されたもので、史実として利休の代わりに河原で磔にされている。その後切腹した利休本人の首をこの木像に踏みつけさせてさえおり、史上他に例を見ない異様な事態だった。
 ただ内容的には新味はない。どちらかというと、この作を含め短編集全体を読むことで、作者が描きたいものが浮き彫りになる仕組みであったように感じた。
 同年発表の井上靖版(5)『本覚坊遺文』が面白い。これもミステリー仕立てと見ることができる。利休晩年の無名の弟子本覚坊(実在)が書き残した記録(架空)を作者が発見した、という体裁。利休没後、本覚坊が様々な利休ゆかりの人物と出会いながら、いつしか利休の死の真相に気づいていく、というもの。ある日の茶会がクローズアップされていく。そこで、ある盟約が交わされたのである・・・・、と。 (つづく)