利休三昧(二)

 海音寺版(1)『茶道太閤記』が最も古い。直木賞受賞の中編「天正女合戦」を長編化したもの。さすがの筆力というか、ぐいぐい読ませる力がとても強い。だが大事なのは面白いということだけではない。なんでもこの作より以前は、利休は秀吉と対等に描くべき人物とは認識されていなかったとのこと。それを、この作が権力者秀吉と拮抗した、政治的にも重要な存在だった、という認識を世間に定着させたそう。「外向きのことは大和大納言秀長(秀吉の義弟)に。内向きのことは利休に」とまで言われていた、というのは現在ではよく知られている。
 実はこの作品では後半まで利休はあまり登場せず、前半どちらかというと女性中心に話が展開する。何故かというと、利休対秀吉の決定的亀裂の因を、利休の娘おぎんに置いているから。好色な秀吉がおぎんの出仕を命じ、利休がそれを拒んだ。
 実はここに重きを置いている点、今東光版(2)『お吟さま』と三浦綾子版(4)『千利休とその妻たち』は共通している。(2)『お吟さま』ではお吟が恋い慕ったのが実は高山右近であった、というのが面白い設定。ただ中編ということもあってか、掘り下げには喰い足らなさが残った。(4)『千利休とその妻たち』は大変丁寧に、利休の若い頃から描いてあり、これは貴重。二人目の妻おりきに重点を置き、実は利休侘び茶の美学の多くがキリシタンの教えや儀式に影響されたものであった、というのが、自身クリスチャンであるこの作者ならではの視点。このキリシタンの影響というのは(小説ではないが)黒鉄ヒロシの『信長遊び』の中でも言及されており、あながち我田引水的な空想とは言えない。むしろ、作家の個性と歴史との幸福で必然な邂逅によって生まれた作品と言うべきか。 (つづく)