『007 スカイフォール』④

 え。まだ続けるの? いえ、気分の後処理の話。
 通称「ボンド・マティーニ」といえばバーではすぐに話が通じて、『カジノ・ロワイヤル』で飲まれる「ヴェスパー・マテイーニ」を指す。レシピのうちのキナ・リレが入手できないのでそこは代用品を使うことになりますが、最近後継種のリレ・ブランが少し入ってき出したようで、バー・オーガスタで一度これを使ったものを頂いたことがあります。すると僕が知ってる味とは全く違って大変甘く優しい。これは「作り手が違うから」というレベルのものではなく、そもそもリレ・ブランはキナ・リレとは全く味の違うもののようです。
 『スカイフォール』でもボンドはバーテンドレスにシェイクしたマティーニを作らせ、お手並みに「パーフェクト」とご満悦でしたが、あれはおそらく普通のウォッカマティーニでしょう。シリーズ中多くの作品でマティーニを注文するボンドですが、たぶん『カジノ・ロワイヤル』と『慰めの報酬』以外で飲んでいるのは「ステアでなく、シェイクしたウォッカマティーニ」だと思われます。「ヴェスパー・マテイーニ」はヴェスパー・リンドにちなんで考案したオリジナル・レシピであり、想いから彼女を消し去って後は、それを口にする筈はないから。
 長いシリーズ中で、けしからんことにスコッチウイスキーを殆ど口にすることのないボンドですが、今作では嬉しい設定が追加されています。それは「ボンドはマッカラン好き」というもの。確かに姿をくらましていた浜辺の店で掴んでいたボトルは遠目にもマッカランの現行品と知れました。物語中盤、シルヴァから「50年のマッカラン」という、なんだか相当希少そうな一杯を振舞われてもいます。終盤にはハイランドの地に立ちます。それだけで胸が熱くなるではないですか、スコッチ好きにとっては!
 映画を観て後、通勤電車でも本を詠む気になれないくらい余韻を引きずっていました。その気分の後始末のため、バー・オークスドラムに行って、大好きな「いとうさんの作るヴェスパー」を頂きました。そして、次の一杯こそはマッカランと決めていました。こういうときはいいのを飲もう、と覚悟を決め、僕の中での「必殺のマッカラン」であるシルバー・シールの21年ものをオーダーしました。
 スマートであり、全くしつこさのないシェリー樽熟成。その上色気のある味わいです。しかし、ここに来れば飲めるもの、と思っていたこのシルバー・シールのマッカランも、この1本がお店のラスト、とのこと。僕にとっては高価なので大抵いつも眺めるだけにしていましたが、飲んでおいてよかった! このボトルが空くまでに、できればあともう一杯いただきたいものだ・・・・。
 共にボンドシリーズのファンであるいとうさんと、しばし007談義に花咲かせ、映画の余韻にけじめをつけたのでした。(以上)