『007 スカイフォール』②

 まるで、「007の設定を借りたオリジナルの物語」のようです。それくらい、従来の作品と一線を画しています。が、実は本作、原作の精神を深く掘り下げて作られていると思います。それは007=ジェームズ・ボンド像に顕れています。強い自信とプライドを持ち、愛国心・忠誠心は人一倍。その一方で、内面に深い絶望感と職務に対する懐疑心を併せ持っている。自身の影の部分の象徴のような敵と対峙することによってそれが浮き彫りになって行きます。「ネズミのエピソード」が不気味な印象を残します。更にはMに対する猜疑心が煽られる。最終的には、自らのトラウマであった過去に向かい合うことによって、それらを克服しようとします。こんな展開、前代未聞です。
 演出は細やかです。映像はスタイリッシュであり(上海のシーン!)台詞も練られています。絵画を前にしてのQとのやりとりもいい。後半、審問の席で詩を披露するくだり以降の展開も感動的です。もちろんアクションも凄絶を極める。前2作もスピード感が凄かったですが、ちょっと「何が起こっているのかわかりにくい」というところがありました。それも改善されています。プレタイトル、そしてクライマックスのすさまじいこと!
 アデルの主題歌も完璧ですね。こんな沈鬱なテーマ曲がシリーズ中あったかなと思いますが、これがまた作品のトーンを表現しきっています。しかも極めて「007っぽい」。
 音楽と言えば今回久しぶりにデビッド・アーノルドが外されています。ピアース・ブロスナンのボンドでシリーズが再生してからは(その第二弾以降)ずっとスコアは彼でした。元祖オリジナルのジョン・バリー節をよく再現して好評でしたが、本作では監督の要請によりトーマス・ニューマンが起用されています。批判する声もありますが、いいじゃないですか。作品により、監督により、音楽にも個性があるのが僕は好きです。過去作ではエリック・セラが担当したときが一番007っぽくなく感じましたが(これがブロスナン・ボンドの第一弾)、一方で新時代・新感覚に踏み込んだんだなあとも感じました。もっと古くはビル・コンティ担当のスコアが、モロ「ロッキー節」全開で面白かった(『ユア・アイズ・オンリー』)。とは言え僕にとってのベストスコアは、ジョン・バリーの手による『女王陛下の007』なんですが。
何より劇伴として、今回のスコアはとても良かったと思います。脚本同様、緊密に練られています。ストイックなほど馴染みのテーマ旋律を抑制していて(とは言いながら、ちゃんと断片はちりばめられているんですが)、そのぶん、後半でいっきに爆発します。演出上の仕掛けとも密切に連動していて、その最たる例がクルマ。とだけ言っておきます。まあ前評判で旧作『ゴールドフィンガー』は復習が必須と聞いていたので予想はしていましたが、その予想が裏切られることなく展開したとき、古くからのファンは絶対暗闇の中でニンマリするでしょう。横に座ってた妻がその気配に気づいて「なに?」と訊いたくらいです。(意外と音楽バナシが長びいたのでまたまたつづく。あとちょっとですが)