バーテンダーという人たち

 すごいなあ、と思うのが、バーテンダーという人たちである。
 客商売の人はみなさんそうなのだろうか。まず、とにかくよく覚えている。ほんの二三回それも間を空けて行っただけなのに、ちゃんと顔もそのときした話も覚えておられる。特に僕は自分で言うのもなんだが印象が薄い・存在感のない人間なので、そういう奴でもちゃんと覚えていてくださっていた、というのは大袈裟でなく衝撃である。
 それから、これはなかなか言い方が難しいのだが、バーテンダーさんというのは、大変な奉仕精神と、高いプライドが両立している人だなあ、と実感する。スタンスは本当に人それぞれで、芸人並みにしゃべくりがおもろい人、控え目でちょっと距離のある人、つねににこやかな人、少し気難しそうな人。中には正直あんまりこの仕事は向いてないんじゃないかなあという気がするような不器用な方もおられるが、それでも共通して感じるのが、なんとかその場・その人に対してベストなおもてなしをしたい、という思い。お酒の世界、大人の社交場の奥深さに触れて欲しい、という思い。でも一方で、一国一城の主として(特にオーナーバーテンダーさんは)、独自のプライドとルールは一歩も譲るものではなく、それを表に出す人も出さない人もいるけれど、そこに障る人は厳然と撥ね飛ばす。客も店を選ぶが、店も客を選ぶのだ。堂々と。意気投合すると、ときに損得勘定度外視で、とことんまでサービスして下さる。「良い悪い」ではなく、合うか合わないかの世界だから、「この店がいい」という評価は、びっくりするくらい差が出る。
 独特だなあ、と思う。そして、だからこそなくてはならない空間となって行く。バーテンダーという人は、凄いなあと思う所以である。