やはり支持したい『インセプション』

 僕が観た回は閑散としてました。むしろ前後に書く映画のいわゆる「ミニシアター系」には、年配の映画ファンが溢れていて活気がありました。この作品は純粋に「感想」というよりは、どうしても「批判に対する批判」になってしまうと思いますが、とりあえず・・・・
 本作に批判的な方の意見には、夢の描写に不満が集中しているように感じます。ノーラン監督はリンチやギリアムとは全くタイプが違う作家ですので、そういう期待で観られると失望が大きいのかもしれません。どっちかというと「頭でっかち」タイプですよね。突飛なアイデアを徹底的に知的に処理しようとする。僕自身頭でっかちな方なのでノーランのこういう作風が好きなのです(だからリチャード・ケリー押井守なんかも支持してしまう方です。でも無論一方でリンチやギリアムも大好きです。それぞれ別々に愛している)。本作の夢のルールを「俺様ルール」と揶揄して「言ったもん勝ちだな」と批判する気にはならないんです。いいやん。独自のルールで世界を規定して何が悪いのかな。それに乗れなかったら自分には合わない、でいいのでは。それをもって否定するのは少しおかしいという気がします。
 他にも脚本が弱いとかも言われますが、どうしてこの脚本が「弱い」と感じるのかが僕には判らなかった。「サイトーが持ちかけたミッションの遂行」を軸として観ると、なにぶんアクション演出はやや弱い監督でもありますし物足りないのかも知れませんが、これって妻の死を克服する男の物語でしょ? そう見ると本当に感動的だと思うし、過去の様々な名作を裏地に綿密に組まれた作品世界だと思うのですが。
 難解な作品かと言われると決してそうではないと思います。でも、つい見落としてしまうポイントは多いとも思います。僕自身一回観ただけではまだ見落としているところが多いだろうと思うので、何回もまた観たいと思っています。こういうことを言うとまた「一度見てわからないようでは作品としてどうなのか」と言われそうですが、この見解にも反対です。そもそも優れた作品は、小説でも映画でも、一回観た(読んだ)だけで全部理解したなんて思うのが間違いです。何度も繰り返し鑑賞するのに耐え、その都度発見があるのが名作なのだと思います。名作でなくても、そういう魅力がある作品があるのです。本作も正にそういう映画ではないでしょうか。