面白すぎる『第9地区』

 ヨハネスブルグ上空に出現したUFOは立ち往生したらしく、乗船していた異星人たちは難民として「第9地区」に収容され、20年。第9地区はスラム化、地元民からは行政に非難轟々。武力を盾に連中を僻地に隔離しようという施策が実施される・・・。
 SFというのは非現実の設定を借りて真実を描く力を持っているが、本作などその最たるもの。もちろん優れたイマジネーション、アイデアによる娯楽作として見ればいいのだが、実に巧みな前半→後半の構成から、己の中にある差別意識の恐ろしさを痛感する仕組みになっている。ドキュメントタッチの前半を見ていると、この「エビ」と蔑称される異星人が本当にウザくなる。まとめて始末していいよ、とさえ思ってしまう。ところがエモーショナルな後半になると、この異星人の親子に知らぬ間に感情移入している。主人公であるセコくて身勝手な小役人にも変化が見え始め、最後には彼と異星人の信頼関係を美しいとさえ感じている。完全に人間の方が卑劣に見えてしまっている。
 これは、荒唐無稽な異星人のハナシだからこそ。リアリティのある人間同士の物語だと、知らぬ間に良識が働いて、この映画の前半のように自分の差別意識が発動しない。また主人公が、とても映画の主人公と思えぬチンケな小役人というのもいい。所詮自分とは違うヒーローでないぶん、身につまされる。終盤のいわば「ロボット活劇」とでもいうべきアクションもいいし、とにかくこれはアイデアの勝利。
 いくつかある「突っ込みどころ」をつついて、それをして本作をつまらないとする向きもあるようだが、・・・・やめとこう。ひとを非難することはない。しかし、この作品に対する姿勢で、映画に対するその人のある部分が判るような気はするなあ。