「サーカスの怪人」ほか→「怪人二十面相、伝」→「K−20」(その1)

 映画「K−20」を観よう、と思ってたのですが。どうも原作とは相当違うらしいと聞いてではまず原作を読もうと思い、更にその原作には原典があるのだからどうせならまずはその原典に当たるべし、などと言っているうちに映画のほうが上映を終了してしまいました。何やってんだか。だから、小説はとっくに読んでしまってたんですが、映画がDVD化されるのを待って、映画も観てから書くことにしました。

 劇作家北村想が書いた原作小説の原典というのは、勿論江戸川乱歩の少年探偵団シリーズです。僕は江戸川乱歩が大好きなのに、この少年探偵団シリーズは未だ一作も手をつけたことがなかった。そこで映画の梗概から察して、とりあえずは「サーカスの怪人」を読んでみました。その上で小説「怪人二十面相、伝」を読んでみると、「サーカス」だけでなく複数の原典を踏まえて構成されていることが判りました。原典をみんな読んでいる人はさぞ「にんまり」しているだろうなと思いきや、明智探偵や小林少年の人物像があまりに原典とかけ離れているゆえ、反感を持っている人の方が多いみたいでした。僕なんぞは明智小五郎登場初期の短編(「屋根裏の散歩者」など)でのこの青年探偵は好きですが、本格的に少年探偵団シリーズが始まってからの方は本来の乱歩らしい匂いを感じられず敬遠していたクチですから(そして実際ひとつ読んでみて、あまりに子どもじみていたので「見立ては正しかったな」と思っているものですから)、妙に魅力のない「清廉」なこの探偵&助手コンビを皮肉った北村作品はむしろ大いに面白く読みました。乱歩原典にあった「二十面相の正体はサーカスに居た遠藤平吉という男だった」というネタを最大限膨らませて、創造力の翼をはばたかせた佳作だったと思います。太宰治出口王仁三郎といった実在の人物がちらっと絡む辺りも絶妙でした。

つづく