『明暗』とその後 1

 夏目漱石未完の遺作『明暗』を読みました。
 まず不覚にも、漱石ってこんなに女性描くのがうまかったんだな、と思ってしまいました。無論それ以前の作品でもたくさんの女性を描いてきていた筈ですが、これほどボリュームがあった試しはなかったのでは? みなよく喋り、怒り、アグレッシブに動き回ります。これが鮮やかです。社会背景を差し引くと、全く現代でも通用する女性像だと思います。
 一方で、心理描写が分厚く、分厚すぎてテンポが遅く、随分と読むのに時間がかかってしまいました。いや決して冗長というのではないんです。無駄は一切ないと思うんですが、「ロシア文学かい」と思うくらいの丁寧さ、ゆっくりさでした。そういえば作中でドフトエフスキーの名も出てきましたし、社会主義的な言及をする登場人物もいました。あながちロシア文学・思想の影響ありというのも外れていないのかもしれません。
 主人公の津田とお延の夫婦の在りようを見ていると、夫婦ものならいろいろと考えさせられるでしょう。津田が「清子」のいる温泉宿へ行く、という、それ自体ありえない行動ですよ。一体漱石はどんな結末を考えていたのか? 絶筆間際にようやく登場した「清子」は、どんな人物なのか? なぜ津田のもとを去ったのか? 興味は尽きません。僕はどんな形であれ、この男はしっぺ返しを食らうのでなくてはいけないと思いましたけれども。それが結果的にハッピーエンドに繋がるのかその逆なのかは判りませんが。
結末については様々な人が様々な言及をされています。そこで、読書は更に進むのでした。(つづく)