座頭市の物語(2.映画)

 さて映画の方は、数多い中には出来の良し悪しもあろう。どこから手をつけようか途方に暮れたが、まあどうせならということで、最初の三作を観てみることにした。「座頭市物語」「続座頭市物語」「新座頭市物語」。最初の二作は白黒だった。その二作は話が繋がっていて、これがちゃんと原作をふまえたものだった。一作目の最後には、ちゃんと原作で語られた市の渡世哲学が台詞もそのままに語られた。映画では浪曲の作品世界でスター的存在だった平手造酒を登場させ、これが市と心通わせるがやがて斬り合わずにいられない筋立てになって行く。市は居合いの達人として登場するものの、丸木橋を渡る足元はおぼつかなく、殺陣もまだふらふらして、空振りなんかもするから超絶的な存在としては描かれていない。これが作品の回を追うごとに、段々と超人然となって行く。個人的には最初の雰囲気が好きなのだが、これがまあロングランシリーズとなる所以でもあるのだろう。このキャラクターを確固たるものとして行ったのは、無論主演勝新太郎の個性が大きいのだろうが、初期の作品の脚本を担当した犬塚稔、そして初作をはじめ度々シリーズの監督を務めた三隅研次、この三者に拠るものと言うべきだろう。
 以後の作品については、ネットをさ迷い歩いて幾つかの評判を読みあさり見るものを決めた。第2作「続座頭市物語」は先述の通り一作目の続きで市が平手造酒の墓参りに戻って来るが、ここで今度は実の兄と対決することになる。兄を演じたのが勝の本当の兄若山富三郎。いきなり終わるラストが潔い。第3作「新座頭物語」からカラーになった。かつての剣の師匠と対決することになる座頭市の悲しみを描くが、この師をもっと大人物として描いて、二人の対決を本当に止む無い事情に追い詰められなかったかな、と、少々残念な気もした。段々と市は無敵感を増してくる。第12作「座頭市地獄旅」は脚本が大変練られていて、複数の人物が抱えた物語が最後にひとつに収斂する。後の怪優成田三樹夫がニヒルな浪人を演じていてカッコいい。第17作「座頭市血煙り街道」では殺陣の見事さが有名な近衛十四郎と対決する。やはり見ものはクライマックスの対決だが、殺陣のキレに留まらず、男前な行動にもしびれる。この作品は「ブラインド・フューリー」のタイトルでハリウッドでリメイクされている。第20作「座頭市と用心棒」は異色作で、用心棒と言えばそう黒澤明の「用心棒」。三船敏郎がまんまの風貌で登場する。無論別人物としてだが。時代劇スター頂上対決との喧伝だったそうだが「どうせイロモノだろう」と思って観たらそうでもなくちゃんと楽しめた。ちょっと人物が喋り過ぎのきらいはあったが。監督が何せ巨匠岡本喜八だ。かなり凝った筋だったが、三船の正体をバラすのがちょっと早かった気がする。
これでもまだ全シリーズのごく一部。勝自身が監督したもの、特に16年ぶりに作られた最後の作品「座頭市」は観てみたいものだ。