架空全集 第四期

「一杯飲みたくなる十冊」
1「きらきらひかる江國香織 新潮文庫
2「テロリストのパラソル」藤原伊織 角川文庫
3「神の火」高村薫 上、下 新潮文庫
4「ロマネ・コンティ・1935年」開高健 文春文庫
5「サボテンの花宮部みゆき(『我らが隣人の犯罪』文春文庫収録)
6「兇賊」池波正太郎(『鬼平犯科帳(五巻)』収録) (文春文庫、2000年) 
7「若山牧水歌集」
8「美酒礼賛」山口瞳
9「美酒楽酔 飲めば天国」『世界の名酒辞典』編集部編
10「町の酒屋 新潟銘酒と早福岩男」谷澤雅視

 やっぱり読書好きとしては大したことがないのでしょうね。このテーマだと映画の方が次々浮かんで来ます。今思いつかないものでもいいものはたくさんあるのでしょうが、とりあえずはこの十冊を。
 1はアル中の妻と同性愛の夫、そして夫の恋人の物語。もちろんものすごく特殊な登場人物の物語なのだけど、実は普通の夫婦の問題であるような気もします。と言うと驚かれるかもしれませんが。
 2もまた主人公がアル中。ずっとウイスキーを飲んでる。ウイスキーなら何でもいいそうで。と言いながら実は好みがあると見た。ストーリーはスリリングなハードボイルドです。全共闘を経験した人には尚更特別な物語になるのでは。江戸川乱歩賞受賞作。
 3でまたまた高村薫。これの読者は、冷蔵庫にキンキンに冷やしたウォッカを持ってます。小汚い中華料理屋で主人公が飲むやつ。実際にはそんなもん置いてる中華屋なんてないでしょうけど。これもハードボイルドですよ。そろそろ高村薫にハマってきました?
 4 ロマネ・コンティなんて多分一生縁がなかろうと思いますが、これを読んでたらまあ一度は味わってみたくなりますよ。その余波でせめて小マシな赤ワインを飲みたくなる。作中のロマネには愛おしさが込上げます。併収「玉、砕ける」も絶品です。
 5のサボテンって竜舌蘭なんですよね。そう、テキーラです。泣けますよこれ。中学校の話ですが、もちろんミステリでもあります。宮部みゆきは暖かい話が上手いですよね、本当に。
 6 池波正太郎の作品はどれも食い物が「もうひとつの名物」という訳で、鬼平犯科帳でもどの話でも旨そうに酒をやっています。が、このエピソードを読むと加賀屋の芋酒というのが無性に飲んでみたくなりますねえ。ドラマでもこの話はやったそうですが随分と筋が違っていたそうです。
 7の若山牧水は旅と酒を愛した歌人。酒を題材にたくさん詠んでますね。一番有名なのは「白珠の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒は静かに 飲むべかりけり」あたりか。岩波文庫からちょうど手ごろな歌集が出てます。
 8の山口瞳は粋人で、その美学をおいそれとマネゴトなんぞできませんが。サントリーウイスキーのコピーライターだった氏には当然酒にまつわる随想も多く、この本なんかはそういうのを思いっきり固め読みできますよ。
 9上記の山口瞳を含めた酒に一家言ある錚々たる面子、阿川弘之吉行淳之介丸谷才一開高健・・・・揃いも揃った座談会・エッセイ・酒論。日本の洋酒史と申し上げても障りありますまい。楽しいですねえ。
 10は尼崎の酒屋山本酒店でご主人から頂戴した本で、そうそう店頭では見つけられないかもしれません。ごめんなさい。山本さんもお付き合いのある新潟の酒屋さん早福岩男氏を中心に取材されたドキュメンタリーです。「越乃寒梅」はじめ八種の新潟の酒のみ商うお店。山本酒店も紹介されてます。「あきない」って何なのか。その原点に思いを馳せると、熱くなるものを感じます。

 未読なので扱いませんでしたが、「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」(村上春樹)。これも読んでみたいですねえ。