架空全集 第三期

「映画化して欲しい、いや、して欲しくない十冊」

1「深夜プラス1」ギャビン・ライアル
2「リヴィエラを撃て!」高村薫(上、下)
3「魔術はささやく」宮部みゆき
4「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド村上春樹(上、下)
5「箱男」阿部公房
6「1809 ナポレオン暗殺」佐藤亜紀
7「オリガ・モリソヴナの反語法」米原万里
8「エレーン」中島みゆき(アルバム「生きていてもいいですか」所収)
9「凶刃 用心棒日月抄」藤沢周平
10「一九三四年冬、乱歩」久世光彦

 自分の好きな小説を「映画化して欲しい」という思いと「して欲しくない」という思いは、正反対でありながら背中合わせに同居するものだと思います。でも勝手にキャスティングなど夢想するのは楽しい。そんな作品たちです。以下、もしかしたら僕が知らないだけでとっくに映像化されているものもあるのかもしれません。もしそうだったらごめんなさい(そして情報教えて下さい)。
 1はどうしてこんな逸材をハリウッドが放置しているのか理解できないような傑作ハードボイルド。僕が読んだ当初ならクリストフ・ランベールとメル・ギブソンで映画化して欲しかった。いまや両人ともいい歳。今なら誰が似合うだろう。
 2は日本が生んだハードボイルド。高村薫は好きだけど中でもこれが一番。全く甘さのない、非情な裏社会。スパイの世界は決して007みたいなもんじゃない。(007も大好きだけど)
 3は今をときめく宮部みゆき初期の作品だが、社会性云々はともかくなかなかこれを越すものはまだ出ていないのでは? 「能力」を持ってしまった少年の苛烈な運命。
 4もこの作家初期の名作。これを映像化するのは正直不可能だと思う。もし映像化するなら、その作り手の独自の解釈・美学を前面に押し出した全くの別物になるでしょう。それだけに、有能で大胆な映像作家に挑戦してみて欲しいのです。
 5、これも4と同様映像化は無理。でもこの幻惑される作品世界の魅力には本当に参っていて、何度でも読み返してしまう。そしてその度に振り回される。箱男はあなたのすぐ傍に座っているかもしれない。
 6の佐藤亜紀は独自の美学を持った作家。その世界は、誤解を恐れずに言えば一種少女漫画的な香りがする。大変高いレベルで。この作品など光と影の交錯する、大変映像的な資質を持ったドラマです。主人公がカッコ良すぎてキャストが立たないか?
 7はロシア語通訳でありエッセイの名手である米原万里の小説ですが、内容は限りなく真実であり、先にノンフィクションの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」として既に語られている。その辺りの微妙な関係から本作を小説として受け入れがたい向きもあるようですが、幸い前作「嘘つき・・・・」を知らずに読んだ僕にとっては名作小説として心に残っています。東欧の悲劇の歴史に翻弄された人間ドラマは、「ソフィの選択」などと連想が繋がる。映画的な素材だと思います。
 8は歌詞。「暗い」と言われる中島みゆきの作品群にあって一層強烈にどす黒い魅力を放っているアルバムの、タイトルのもととなった歌。これに限らず中島みゆきの歌には背景にストーリーを感じさせるものが多い。これなんか本当に立派な物語として成立すると思う。実話を基に作ったという話も聞いたことがあるし。
 9はシリーズ最終第4作で、3までは以前NHKが「腕におぼえあり」という題でドラマ化している。これがなかなか良くて、「前作から16年後」という設定の本作は、今同じキャスト(村上弘明渡辺徹など)で制作すればちょうどいい感じに出来るのではないか・・・・と思いながらちょっとネットで調べたら、なんだ「腕におぼえあり3」のタイトルで本作もとっくにやってたのではないか! しまった! 知らなかった! 観たいな、これ! でも制作は「腕におぼえあり」「同2」の翌年。設定は10年後ということになってるらしいが・・・・同じキャストでは無理がないか? よし、改めて作り直しましょう! 今度は劇場映画でどうですか?
 10は小説家江戸川乱歩が、スランプに陥って姿をくらました4日間を描くフィクション。乱歩以上に乱歩的な架空の作品が登場したりして、本当に本当の出来事のように思わせられる。以前乱歩自身が主人公として活躍する映画があったが、それなら是非こちらを映像化して欲しいものです。乱歩作品の映画化は昔からたくさんありますが、本作を忘れてはいませんか?