ルパン三世 GREENvs.RED

包帯ぐるぐるはちょっと不気味

 DVDオリジナルとして発表された作品。最近毎年一度のテレビスペシャルもご無沙汰だったので、ルパンを見るのは久しぶり。原作コミックが発表されて40周年ということだが、大して期待して見たわけではない。そもそももうこのシリーズ自体そんな名作が生まれると期待している訳ではないのに、それでも新作が発表されると気にはなる。腐れ縁と思っている。今回もまあ「毎度の」・・・・と思っていたら、事情が違った。これは随分な異色作であった。
 サブタイトルにも顕れているが、緑ジャケットのルパンと赤ジャケットのルパンの対決という惹句であった。「なんじゃそれ」という思いはあったが、懸念していたような類の作品ではなかった。ふたりどころか、数え切れないほどのルパンが出てくる冒頭では溜息をついていたものだが、中盤からはなかなかに惹き込まれた。
 説明しようと思うとネタばらしになるので難しいのだけど、根底にあるのは「これまでいろいろなルパンが生まれて来たが、全部が別人で且つどれもが本物」という思い。これは最近の007シリーズの影響があると思うのだけれど、「ルパン三世とは特定の個人を指すのではなく、コードネームのようなもの」あるいは「我々が気づかぬ間に代々引き継がれて来たもの」という感じだろうか。これは当然ずっとシリーズに愛着を持って来たファンにとっては相当に抵抗のある設定だ。加えて作品自体かなり複雑難解に組まれていて、作り手の意図もハッキリと説明はせずにいろんなところで暗示する、というスタンスを取っている(個人的には好きなスタンスだが)。だからどうやら批判的な評が圧倒的に多い。確かに無理な部分もあり純粋なエンターテイメント性から言うともうひとつという部分もあるけれど、完成度は完成度として、僕はこういう実験精神は好きなのだ。こりゃテレビスペシャルじゃできないな、と思った。実験精神など気取っているだけで「何の意味があるの?」と考える向きもあろうが、そちらの方がまっとう健全なのだろう。僕はちょっとヘンなのだろう。
 今ではシリーズを代表する名作とされる、「ルパンと言えばコレ」という作品は『カリオストロの城』だけれど、発表当初は「あれはルパンではない」と言われた。それまでのルパンとは全然違う作品世界だった。だがあまりに完成度が高くて、以降のシリーズは殆どが『カリオストロ』の焼き直し、という事態に陥って現在に至る。最初にアニメ化企画に携わった作家や、原作者まで引っ張り出されて原点回帰的な作品も作られた。かなりいい感じのものもあったけれど、それでもとても「好きなように作った」とは言えず完全にカリオストロの影響は拭いきれることはなかった。こうして国民的な長寿シリーズとなったルパン三世だけれど、実はカリオストロを作った宮崎駿の思いは「ルパンに止めを刺したい」というものだった。「これで終わらせたい」と思って作ったのに、出来が良すぎて永遠の命を与えてしまったという皮肉。その後弟子筋に当たる押井守が意志をついでシリーズを終わらせるべく考えた企画は製作サイドに嫌われて日の目を見ず。この幻の作品のアイデアは後の押井作品にいろいろと活かされたといわれるが、押井ルパン、実に見てみたかった幻であった。
 本作も、作り手の意図はそうではないかもしれないが、シリーズに止めを刺す、その可能性を秘めた企画であったのではないかと思う。きっと大勢には黙殺されて、まだ何本かは従前と似たような作品が作られるのだろう。だが本作でも声優の声を聞いていたらわかると思うけれど、彼らも老いた。肝心要の主人公の声の主が逝ってからは既に10年以上が経ち、後を継いだ栗田氏ももちろん大健闘しているけれど、不自然な状況がこうも続くとは正直思っていなかった。声優を入れ替えるのもひとつの選択肢かと思うが総替えすると大ブーイングを喰らうのはドラえもんの例を待つまでもない(一度ルパンもこの試みを実践しているが、「偽ルパン」とまで言われて評判は悪い。まあストーリーはまんま五右衛門版カリオストロの城だったが、ライブアクションはなかなかの出来だったのだが)。まあ無理に終わらせてしまうこともないが、無理に続けるのもどうかという思いが強い。よほどのアイデアでも出ない限り毎年1本無理やり作るのは考えた方がいい。本作を見て改めてそう思った。
 僕も昔小説の真似事をしていたことがあり更にその前には漫画の真似事もやっていた。それで、素人のひとりよがりながらオリジナルのルパン原案というのも考えていたことがある。そしてこれが実は「最期のルパン」というアイデアなのだ。・・・・原作「新ルパン」の最後でルパンたちが銭形の罠にかかって爆弾で吹き飛ばされ以後姿を見なくなるが、それから数年の後。ルパンの名を騙る偽者が頻出する事態が発生する中銭形の許に盗賊一味が大結集するというタレコミがある。その場にルパン三世が姿を見せるという。ピンと来るものを感じた銭形が、次元に変装して潜入する作戦を思いつく・・・・という出だしです。誰か買ってくれませんかね?
 話が大きくズレたけれども、本作でラーメンズ片桐仁、熱演でした。真の主役であった彼の役名が「ヤスオ」というのも、シャレていた。