「外で飲む」派、「ウチで飲む」派

 bar婆沙羅のマスターは、シングルモルト好きが高じてお店を始められたというふうにどこかで読んだ記憶があるが、お話を伺うと自宅にはウイスキーは置いておられないそうだ。せいぜいビールを飲むくらいとのこと。いいものは特にそうだが、家で飲むのはもったいない、味が違う、と仰る。これはわかる。
 バーというのは異世界である。そこでしか飲めない珍しいものに出会えるというのも勿論そうだが、それだけではなく、日常から切り離された特別な場所で、特別な時間を過ごすためのものとしてそこに在る。そこで出会う人との語らいも含め、あらゆる要素が作り出すものがお酒の味をも特別なものにしてくれる。これは家では味わいようがない。
 だからお酒は外で飲むのだ。
 しかし、これとは全く逆に、家でしか味わえない時間、味わえない酒もあると思っている。
 それは、自分と対話する時間とでも言おうか。ほんのひとときでも、完璧に自分だけの時間というものを一日のおわりに過ごしたいものだと思う。これはようやく結婚したとはいえまだ子がいないから言える悠長な話だということはわかっている。が、夫婦のひとときを大事にしたいと同じように、独りのひとときもまた大事に思っている。一日を終える前に、いろいろなことに思いを巡らす。あるいはただ放心する。文章を読んだり綴ったり、音楽に浸ったり。また他人には本当にどうでもいいと思われるようなことに没頭したりする。そんなときに、その時の気分で好きなお酒を選んで飲むのは僕にとっては不可欠な要素なのだ。だから家にはできるだけいろいろなお酒を置いておきたい。
 外でしか飲めない酒があるのと同等に、家でしか飲めない酒もある。だから僕はひきこもり気味な家飲み派。外でのお酒はまだまだ十分に味わえていないお子ちゃんである。