やっと触れる、新知事のこと

 昨日書いた同窓会で、ある卒業生が「少し真面目な話をしたいんですが」と寄って来てくれた。橋下新大阪府知事をどう思うか、という話だった。僕は正直に、あの人の発言を聞いていると新知事はどうも庶民の味方ではないなと思う、と答えた。卒業生は意外な顔をしていた。
 子どもが笑う、と、財政再建。これが目下新知事の標榜する課題だが、その一方で(いや、それが故に、か)住民投票で国の防衛政策に意見を差し挟むのは間違い、とか、35人学級実現に必要な30億円は他に使い道がある、とか、そういうご発言をされている。「府債ゼロ」は結局ナシになった。府債を減らそうという改革意識には大賛成だが、いきなり数日間でゼロに、なんてあまりに極端過ぎて政策以前の問題だったから、正直ほっとしている。なにしろこの府債ゼロをいきなり実現しようと思ったら、全職員の給与を2割カットしても追いつかないのだというから、給与が府の動向にリンクされる我々としては恐ろしいことこの上ない話だったのだ。とは言え、新知事は最初の職員訓示で「大阪府は破産企業と一緒。職員は給料を半分にされても当たり前だ」と言っておられたくらいだから、1割や2割の給与削減は早晩現実のものになっても少しもおかしくない。
 この「給料半分」が当たり前だ、と、話しかけてきた子の隣にいた卒業生が語気を荒げた。とても穏やかな、おとなしい男の子だ。給料半分なんて無茶苦茶な話を「当たり前だ」と思ってしまう、これが今の庶民感情の実態だろう。この子のように毎日薄給でせっせと過酷な労働に従事している人は、「公務員なんて、楽して高給取ってやがる」というイメージを定着させている。実際には、大阪府の給与はさんざんこれまで落としまくって、いまや全国で42位という低さになっている。その上普通の企業に当たり前にある福利厚生までももう殆どなくされてしまった。まあ公務員・教員の給与の話は日記でも同じようなこと散々書いているので繰り返さないけれど、お国の目論み、つまり庶民と下級公務員とをいがみあわせて上の方のおいしい状況や不手際から目を逸らさせようという作戦は、見事に成功しているわけだ。
 僕は、「破産企業と同じ」と言うならまずその責任の所在を明らかにして然るべき人が責任を取り、根本的な改善策を講じるのが先決だろうに、そういうことは一切抜きで職員の給料だけ半分にするなんて手抜き技、誰も納得できないんじゃないか、ということだけ申し上げた。これには卒業生お二人とも納得してくれていた。
新知事の改革意識は高く買う。その気性と知名度をうまく活かせば大阪府の活性・再建にはなんらかの力になるだろうとは思う。でも、とにかく性急・極端に過ぎるし、正直庶民感覚をお持ちとも思えない。今の様子のままでは、とてもいち下級公務員としては支持できない。教員や警察官など志願する人はどんどん減って、質の低下を招くだろう。質の低下は国の施策がおおもとだけれど。喧伝されている「質の向上」とは正反対のことばかりされているから。でも大阪も、これでは優秀な人材をどんどん取り逃がしてしまうばかりということになるのは目に見えている。
 結局、新知事が一番にアピールしていた「子どもが笑う」からは、遠く離れて行くばかりになるのだろうというのが、僕がいま知事に対して抱いている正直な感想だ。