じっと待ち続けている《日本のウイスキー 最近の話⑤》

これはカスクストレングスの12年

 昨夏、軽井沢か東京か、どちらかに行こうという話になりました。卒業論文堀辰雄をテーマにした者が、まだ軽井沢に行ったことがない! まあ結局行き先は東京になったのですが、当然軽井沢に行ったならば軽井沢蒸留所を見学したいと思っていました(堀辰雄はどうした)。ここには美術館も併設されていて、それもまた素敵らしいそうなのです。ところが、どうも現在ではこの美術館も蒸留所も、見学や試飲はかなり限定的になってしまっているようなのです。いや正確なことは判らないのですが、少なくとも蒸留所はもうウイスキーの蒸留は行っていないらしい。
 軽井沢蒸留所は、もともとワインのメルシャンが所有する蒸留所でした。それがキリンディスティラリーに売却されたのだ、ということは知っていました。でもその時点でウイスキーの蒸留そのものがストップされたのかもしれません。ネットで買えると思った軽井沢15年というシングルモルトも「終買でした」ということで、もう殆ど出回ってないようです。以前妻が軽井沢12年というのを買って来てくれたことがあり、これが結構イケたので、その後ビンテージものも1本手に入れました。こちらはシェリー樽熟成のもので本格的です。バー・オークス・ドラムで17年を飲んだことがあるのですが、これはなんだか頼りないというか薄いというか、とにかく物足りない気がしました。もしかすると前後に飲んだものとの相性が良くなかったのかもしれません。一方でバー・メイン・モルトでは昨年瓶詰めという代物を飲んだことがあり、これは随分旨かった。マスター曰く、軽井沢はあんまり長熟じゃない方が、樽香が付き過ぎてなくて美味いのではないか?、と。確かにそうなのかもしれません。
 去年ボトリングというのが出たくらいなのですから、新たな蒸留はしていなくても、樽はちゃんと生きているのでしょう。以前イチローズ・モルトがこの軽井沢で見捨てられていた樽をもらい受けてちゃんとした商品に仕上げたことがありました。最近も軽井沢の樽を自社で完成させた「イチローズ・チョイス シェリーインフリュエンス1983」というのを発売しました。http://www.sake-brutus.com/whisky_topic/ichiro_vin/index.htmこれ是非飲んでみたいのですが、たった131本しかボトリングしないせいもあってか、どえらく高いです。それでもまたあっというまに売れてしまうのでしょう。
 長い眠りにつきながら、いまも樽の中で待ち続けているモルトたちがいます。せっかくの、日本の数少ない蒸留所の中のひとつ軽井沢。そしてせっかく軽井沢のモルトには軽井沢ならではの個性があるのだから、せめてこのじっと待ち続けているやつらは大切にしてやって欲しいなと願うばかりです。