垣根を越えること《日本のウイスキー 最近の話④》

ギンコー

 イチローズ・モルトが主に海外市場向けに出したブレンデッド・モルトウイスキー「ギンコー」というのがあります。ギンコーというのは銀杏のことなのだそうです。ほんのちょっとしか作らなかったようですが、まあイチローズ・モルトにしては全然高価でなかったので1本入手しました。いやただ単にイチローズ・モルトが自分とこで持っているモルトを混ぜ合わせただけというならそんなにムチャクチャ惹かれもしなかったのですが、実はこのウイスキーとんでもない前代未聞の代物でして。何と、メーカーの垣根を越えて、各社の蒸留所のモルトを独自にブレンドしたものなんだそうです。何をどれだけ使ったかは、未公開。もちろん僕なんぞがいくらテイスティングしたって判りゃしません。少なくとも山崎は入ってるなあ、と、これはもう誰だって気づくことでしょう。販売店の惹句曰く、もう二度と作られないでしょう、と。そりゃそうでしょう。よく実現したものだなあと思いますよ。それも、国内ではロクな宣伝もなしに。飲み物ですから、一番肝心なのは話題でも希少性でもなく味でしょう。その点も、この一本は満足のいくものなのだと思います。爽やかで、柔らかい甘みはミルクティーとでも言いましょうか? そこにちゃんとスモーキーさも併せ持つという優れものです。外国の評価に下駄を預けるつもりは毛頭ありませんが、それでもアチラ主体で引く手あまたというのならこれはやはりひとつ物語るところがあると思います。
 それにしてもしかし、どういう経緯を経て実現したんでしょうね。これは日本のウイスキー生産者が、何れもレベルが高く、かつ志も高くあって初めて実現したことなのでは? なにせ各々が独自性に鎬を削る世界ですからね、シングルモルトの世界というのは。そう。垣根を越えてひとつのものづくりをできるということは、レベルの高い者同士でないとできないことなんだと思います。余裕も持っていないとね。なかなかそうはいかないものです。何と比べて言ってるのかという話はできないんですが。本当に、難しいです。