ブレードランナーのDVDbox

強力わかもと


 まだ少ししか観ていないのだけれど、未公開映像集と劇場公開前の試写用に編集した「ワークプリント」というのが大変興味深かった。
 主人公の「ブレードランナー」であるリック・デッカードレプリカントである、ということを感じさせる表現が目に付く。この「デッカードレプリカントであった」というアイデアは、脚本を手直ししたデビッド・ピープルズが象徴的な意味で書いた台詞(結局作品からは削られたのだが)を監督のリドリー・スコットが真に受けて大層気に入り固執したというのが真相のようだ。監督以外は誰も積極的にこのアイデアを支持しなかったらしく、監督と主演のハリソン・フォードとが剃りが合わなかったというのはこの辺りも原因だったのかもしれない。
 大変惹かれるアイデアだと一方で思いつつ、僕個人的にはやはりデッカードは人間であるべきだと思っている。この作品はそもそも、感情がないはずのレプリカントが人間的であり、人間の方が感情が死んでしまっているという状況を描いているからだ。そんな中で最後にデッカードレプリカントの情に触れ、人間性と意志の力を取り戻す、そういう物語であったと思う。そうであるならば、やはりデッカードは人間であった方がいいのではないかと思うのだが。ちなみにこの「レプリカントの方が人間的」というのが原作とは決定的に違うところで、原作では人造人間はあくまで非人間的で理解ができないものの象徴であった。「人間が人間性を忘れてしまっている」というテーマは共通しているのだけど。
 改めてこの重層的な作品について考えをめぐらすいいきっかけとなった。まだまだ膨大な映像資料があるので、これからちびちびと見ていくのが楽しみだ。