GIN

かすかに琥珀色

 ジンといえば映画『スティング』のゴードンジン。ポール・ニューマン演じる詐欺師がべろんべろんに酔っ払った演技でロバート・ショーを煙に巻くシーンは忘れられない。ジンというお酒のイメージは何より強い酒。度数はウィスキーとたいして変わらないのにね。決して上品なイメージはなく、粗野で、男っぽい。ジンベースのカクテルも、多くは女性からは「薬臭い」と敬遠されがちだ。
 カクテルの代表格という印象のあるマティーニジンベースだが、通ほどジンの割合が限りなく多いものを好み、やはり「強い酒」として通っているけれど、そのマティーニにはどのジンが一番合うのかなんてことは、そもそもカクテルにあまり興味のない僕には思いつきもしない問題だった。が、あるところでそういう文章を読み、同時に「ボンベイサファイアはありえない」ということも書いてあって、さてボンベイサファイアというジンはどんな味だっけ? と思った訳だ。もちろん飲んだことはあるけれど、ジンが種類によってそんなに味が違うという意識そのものがなかった。いつだったかbar augustaでバーテンさんにこのことを伺うと、ボンベイサファイアは柑橘系の香り付けが強いのが特徴だそうで、その辺りのことを指してのの発言ではないかとのことだった。ちなみにこのバーでは、マティーニにはプリマスジンを使っているとのこと。どうにも気になるので手に入るミニチュアボトルで飲み比べしてみることにした。
 容易に入手できるジンのミニボトルということになると、揃ったのはゴードンとタンカレー、そして件のボンベイサファイア。ちょびっとずつグラスにあけてちびりちびりと飲み比べてみたのだが、言われたからそう感じるのかこころもちボンベイサファイアが爽やかに軽く感じる程度で、僕のような味音痴には、そう劇的な差は感じられなかったというのが正直なところ。こういう奴には何でも一緒ということなのだろう。味のわかる方には「冗談じゃない!」と言われるだろうけれど。そもそもシトラス系の香り付け自体最近の傾向なのだそうな。
 そんな折にこのジンを手に入れた。シングルモルトの瓶詰め業者としてよく知っているキングスバリーの「ヴィクトリアン・ヴァット」。主成分のジュニパーの割合が高いのと、樽に詰めているのが特徴とか。これはハッキリと違いがわかります。とろりとしていて、明らかに濃い。軽さはありません。しかし強さの奥に甘味があり、これは僕の好みにぴったり当て嵌まる。ジンに強さを求める向きには、これは持って来いのジンなのではなかろうか。それにしても、ジンも奥が深そうだ。あまり深追いしないのが無難なような気がする。
 映画でポール・ニューマンが痛飲したジンの味は、繊細華麗とは縁遠い無骨な味の安酒ではあったに違いない。いまどきは男の子でも甘いお酒が人気のようだが、一方でこんな野太いジンが流布しているので、古き佳き男気の諸兄もどうぞご安堵あれ。

(そもそもジンとはどんな酒? それはこちらで。http://www.president.co.jp/dan/20020500/01.html