映画「武士の一分」

一分とは

 山田洋次映画は、すごく好きな人がいる反面ものすごく嫌う人もいる。実は嫌う人の気もなんとなく判らないではない。が、時々初めから結果が出てる感じの人もいる。個々の作品を観る以前に。
 俳優としての木村拓哉も、一般的な評判の一方で映画通からは結構なバッシングを受けている。自然な流れ(?)としてこの作品も好評酷評相半ばしているようだ。なんでも大概好意的に評してしまうらしい僕としては、決して悪い映画だとも思わないのだけど。
 予告編を見ただけでほぼ完全にストーリーは判ってしまった。言うなれば話は単純だ。が、描写ひとつひとつがとても丁寧なので、そういう意味では良質の映画を観た、という満足感が得られる。脇を固めた俳優陣の演技も絶妙。桃井かおりの使い方なんて、いまやあれこそが最も適切。檀れいなんて魅力的な女優さんをスクリーンデビューさせた功績も大。木村拓哉の殺陣もものすごく様になってたし。確かに木村拓哉の演技ってちょっと軽かった。コミカルで親しみが持てると取るか、時代劇らしからぬと取るか。そもそも山田時代劇は作り方やテーマはこれまでの現代劇と一貫しているので、ものすごく丹念でしっかり作り込まれているにもかかわらずとても時代劇らしからぬ雰囲気を持っている。「時代劇ファン」はそこを嫌うのだろう。従前のものと違う点をよしとする僕の嗜好では決してそこがマイナス評価などには繋がらないのだけど。
 ただ、比較しても意味がないと思いつつ、「山田時代劇三部作」初作の『たそがれ清兵衛』ほどの厚みは感じなかったと思った。とりあえず藤沢周平の原作は読んでみたい。読んでからこれ書けばよかったかな。