「天使に見捨てられた夜」桐野夏生

かたせ梨乃なんだよな


 ハードボイルドだね、これは。女性を主人公としてハードボイルドを展開するとこうなる。
 ミロという登場人物はとても魅力的で、…「ダーク」から読み始めた人間はどうしてもそこからシリーズを眺めてしまうのだけど…だんだんとその内面、本質が滲み出てきているように思う。男性との関係性、抱く感情に特に顕著に感じる。当然のこととして、登場してくる男性のキャラクターがまた複雑で魅力的だ。矢代なんて、こりゃモテるだろうなあ、と男の目からも思う。トモさんがまた心憎い。これがダークではあんなにも見る影なく崩れるのだから、この作品でトモさんに惚れたファンは信じたくなかったろうなあ。
 「顔に降りかかる雨」「天使に見捨てられた夜」と、「ダーク」。前者と後者で全く別物の小説と考えるべきだろうと思う。ただ作者の本質がより表出したのが後者だと思うが、先にダークを読んでいると前2作の奥からそれがじわじわと染み出して見えて、面白い。
 以前、小説書きのマネゴトをしていた時、アダルトビデオに出る女性を扱って書いてみたいなと思っていた。思っていただけで形にもなににもならなかったのだけど、それゆえ尚更今作を興味深く思ったという部分もある。思い返せば友人の高杉とベスさんがそれぞれ自作にアダルトビデオの女優を登場させていた。共にあっけらかんとした明るさがあったことが印象深い。この作品は、相当重いです。でも、紛れもない上質のエンターテイメントだ。(写真は映画版「天使に見捨てられた夜」より)