昨日の一日

かの有名な、風見鶏の館

どうも日記が一日遅れになっとる。
高杉は大学時代の友人で、歳はひとつ上。福岡で同業をしている。いつも言うのがかつて西日本短大付属に勤めていて(今回甲子園出てましたね)、田中麗奈を2年間教えていたのだという話。だからどうしたという話だが、ひとさまに言うにはわかりやすい。新庄とは入れ違いで、接点はなかったらしい。
それはともかく、凄い教員である。その実践が読売教育賞を受賞し、本も出たからそれを読めばよくわかる。ただ性格が「山月記」の李徴みたいなところがあって、友達が極めて少ない。彼にとって僕は決してベストな友人ではないんだろうが、付き合いが続く人間が少ないからだろう、嫁ちゃんの実家京都に戻って来るときには必ず一度は会って飲む。
今回は神戸を案内せい、とのことで、まずは何より文具店ナガサワへ。彼も無類の万年筆好きである。福岡は大都市だが、こと万年筆については全く満足のいかない状況らしく、こちらに来ると必ず品揃えの良い店に来たがる。もちろんナガサワは既に紹介済みで、彼の楽しみのスポットのひとつとなっている。最近はファーバーカステルのえんぴつにハマっているらしい。ナガサワにはあるんだなあ。
そして次には何を考えたか異人館街へ行こうと言う。僕も随分前2度ほど行ったことがあるだけでこころもとない。まあ行くくらいはなんでもないだろうと歩いて行ったが、車人間の高杉にはキツい行程になったようだ。少し大回りしてしまうが、有名な風見鶏の館などを見てまわる。絵を描いて売っているおっちゃんがいて、ふたりして感心して眺めていた。
その後南京街へまわる。こうして歩くと結構な距離だ。南京街はものすごい人。屋台に並んでラーメンを立ち食いし(これで済んだのだから、今回は食事は苦労せずに助かった)土産物屋で息子ちゃん指定の品と、これから行く山本酒店への手土産を買う。幸い椅子が空いていたので、ビールを飲みつつひとやすみ。既にくたびれている。
ひと息ついて次はジュンク堂。そして古本屋。彼は本の虫である。読書量がものすごい。僕の友人で飛び抜けて第一位。作家になろうというのだからこれくらいは読むものなのかもしれないが、本の話に僕はとてもついて行けない。文学の話し相手がいないと嘆く高杉。神戸は本屋はいまひとつである。関西ではやはり京都やね。ということでようやく神戸を発ち、阪神電車で大阪方面へ。
途中杭瀬で降り、馴染みの山本酒店さんへ立ち寄る。
僕がこの店を知ったそもそものきっかけが高杉である。彼が佐賀の銘酒「東長」を送ってくれ、気に入った僕がこっちで手に入らないものかと尋ねたらあちらの酒屋で訊いてくれて、出てきた名前が山本酒店さんだった。ここに来て以来僕はすっかり日本酒党で、「東長」と地元灘の「大黒正宗」の大ファンになってしまった。以来いろんな人にこの酒屋とここの酒を紹介している様は度々この日記にも記している。高杉がこちらに来て楽しみなスポット其の②がここである。
山本さんは学校の話が大好きで、辛口の高杉の話を大変興味深くお聴きになる。またいっぱいお酒を出してくださっていろいろと飲み比べもする。同じ酒でも種類が違うとどうか。造った年が違うとどうか。氷を入れてみるとどうか。・・・・などとやっているうちに、ふたりともすっかり酔っ払いである。2時間くらい居座って、しかも何も買い物をせず、その上こともあろうに大吟醸をお土産に頂いて失礼する。どんな酒屋やねん。いや、どんな客やねん!
そして大阪まで戻ってメシを食う筈だが(最後の苦悩。この男をどこに連れて行くか。松林がやっていれば苦労はないが、いつも高杉が来る時は松林が休みの日ばかりである。なにわ爺に連れて行くか、盆休みではないのか、さてどうする・・・・と考えていたが)、さっき山本さんの処で飲みすぎた高杉が気分が悪いという。もともと超小食ではあるが、食う気がしない、とりあえず本屋に連れて行け、と言うから、こっちのジュンク堂へ連れて行く。三宮の店より遥かにいいから。
そうしたらそこがすっかり気に入ったらしく、ずいぶん長くあちこちと見てまわる。「これは読め」とたくさんの本を指定され、そのうち何冊かはその場で買わされる。彼の言う本はまず間違いない。と盲信してよい相手である。大江健三郎開高健村上春樹、中上健二は絶対読んどけ、と言う。でもこの日買わされたのは山口瞳のエッセイ。最近ハマってるらしい。楽しみだ。
本屋で調子を回復した高杉だが、結局もう飲み食いはいいと言い、店に悩んでいた僕としては「助かった」と思う一方「でも俺は腹が減ったぞ」とも思い、しかしそんなこっちの思惑とは関係なく結局最近いつも最後に立ち寄るサンマルクで軽食を。
いろんな話をした最後はやはり教員と教育の話になる。教員が嫌いで、国語の教員はアホしかおらんと豪語する。悲しくもなるが、嘆く点が合ってしまう。そしていろんな話をした〆は「はよ結婚せい」。はい。はいと言っても、ねえ・・・・。
毎日8時には床につくという男である。また明日は遠路再び自転車で帰らなくてはならない身の上である。時間的には早いが、最後手土産を渡してやって別れる。
別れてからメールを送ると珍しくメールが返って来た。
「なんだかいろいろ悩んでいたところに元気をもらった気がした。授業がおもしろいかどうかは判らないが君は良い教員だと思う。君のような教員が増えれば学校は良くなるかもしれない。」
とあった。びっくりした。いろんな点でびっくりした。
高杉とおりえと、僕を最も客観的に見ている二人からいい教員だと言われたのだから、自信持ってやらないと二人にも失礼だ。元気をもらったのはこっちだ、と思った。