つづき

南青山には興味のあるお店がたくさんある。しかしウロウロしていると時間が足りない。やはり神宮前まで足を延ばして「W.F.G.」本店まで行くのは断念。すぐ目の前のプリングルには顔を出してみるが、ここは神戸の店とそう品数に差はなかった。どうしてもメンズがレディスに比べて種類が圧倒的に少ない。もともとレディスのメーカーなのかな?
ここからは本当に定番になったコース。渋谷まで歩いてJRに乗り、品川経由で大井町のフルハルターへ。途中、渋谷の手前で「デックファイブ」にちょっとだけ立ち寄って、ワインカウンターで一杯ひっかける。というもの。
フルハルターは以前ここでもお話をした。万年筆のペン先調整の職人、森山さんのお店である。10周年記念のペンは忙しくてまだあまり使えていないが、実に満足している。ということもお話しなくちゃ。しかし狭い店なので、どうか先客がいませんように・・・・。と祈りながらドアを開けると幸い人はいない。なんせ4人も入るとギュウギュウな店内である。
森山さんが出てこられ、僕の顔を見ると驚かれた様子。「ああ・・・・まだ、でしたかね?」その10周年をまだ仕上げられずにいたままだっけ? とお思いになったようだ。たった50本とはいえ全部ご自分ひとりでこなすのだから、時間はかかるだろう。でも僕はもう使ってるもんね。「いや、出張の帰りなんです! せっかくだから是非寄りたいと思いまして」と申し上げるとにっこり笑われて椅子を勧めてくださった。時計を見るとまだ2時。急ぎすぎたかな、ちょっと余裕が出たな。
いろんなことをお喋りした。さっき書斎館で見た長原さんの新しいペンのことも申し上げた。三宮のナガサワ文具センターの吉宗さんが過日ここを訪れられたのだが、森山さんがご自分のことをご存知だったことをいたく喜んでおられたことも。ナガサワのホームページで吉宗さんご担当の「筆記具担当者のひとりごと」にそこのところの記述がある。これも是非読んでください。毎週の更新を楽しみにしているコーナーです。http://www.rakuten.co.jp/nagasawa/index.html
で、このナガサワオリジナルのペンケースを持参していたのだがそれをお見せしたり。森山さんも是非欲しいとお考えだ。本当に使い勝手のいいケースだから。そうそう、忘れてはいけない。おりえがプレゼントとしてもらって大事に使っているという万年筆のこと。エリーゼというメーカーのものだが廃版になってしまっている。今は快適に使っているがもしダメになったときどうすればいいか? せっかくのいただきものだから買い換えるのではなく「これ」を大事に使いたい。そう言っていたから、森山さんに相談しようと思っていたのだ。とりあえず携帯でペン全体とペン先の写真を送ってもらっていたからそれをご覧にいれる。やはり実物を見てみないとハッキリとは言えないが、と断りつつ、いくつかの可能性を教えて下さった。おりえ、今度その話するからな。
他にもいろんな話をしたのだが、そうこうするうちに二人連れのお客さんが来た。こりゃいけねえ。
にこやかに来店したお二人は、森山さんとの口調からよほど馴染みの方のようだ。僕にも気さくに話しかけられる。で、この時点で僕は見ていなかったのだがフルハルターのホームページの最新の更新で森山さんが紹介されていた新入荷のペンを見に来られたらしい。それを出してもらいながらひとしきり話をされる。僕にも試し書きを薦める。セーラーの「プロフェッショナル・ギア」は知っていたが、この度フルハルター限定50本で太字を出されたのだという。2万円という、万年筆としては安い品だが、お二人しきりと「いいねえ、こりゃ」とベタ褒め。確かにいい。その時僕は事態を把握しておらず、今朝自宅で記事を読むまでそれがフルハルター限定と知らずにいたのだ。こっちに帰ればナガサワにもあるだろう、くらいに考えていた。知ってりゃ絶対その時点で注文してたのに! くそ! 
やがてお二人は自前のペンを出されていろんな色のインクで字を書き始められた。僕はちょうど色インクの話を森山さんにしようと思っていたところだったのだ。それが今回の最後の目的だった。なぜかというと、万年筆のインクは実にいろんなものをいろんなメーカーが出していて楽しいのだが、こと「緑」に関しては気に入ったものがない。僕は、うぐいす色、とでも言うのか、渋い色調のグリーンインクが欲しいのだ。森山さんはご自分でいろいろ調整されてオリジナルの緑をお使いになっている。これが実にいい色だ! 最近ここのホームページで新しいコーナーが出来て、それが「インク研究会」というもの。過日雑誌「Memo」でこの店が紹介された折にここの馴染みでもある画家の古山さんが命名された常連たちのグループの名である。このインク研究会の面々がいろいろとインクを自身で調整・開発されていて、緑もいい色を作っておられたから、そのことを伺って帰ろうと思っていたのだ。すると森山さん、「ホームページはご覧になってます?」「はい勿論」「このお二人、あのインク研究会のメンバーなんですよ」「ええ〜!」
なんてタイミングなんだ。そこからはお二人、「我が意を得たり」とばかり、怒涛のインク調合談義を始められた。「兵庫の方なの? じゃナガサワの吉宗さんと一緒にいろいろインク混ぜ混ぜやってごらんなさいよ」ここにも吉宗さんをご存知の方がおられた。どんな店にもないようなすさまじい色見本のオリジナルノートを見せてくれるわ、今調合途中なのだというインクを書かせてくれるわ・・・・。参りました。この方たちこそ「マスター・オブ・オタク」である。いや馬鹿にしているのではない。僕なんぞこの人たちの前では万年筆初心者である。この「インク研究会」のこともあるが、とにかくすごいホームページなのでフルハルターのHPも是非ご覧あれ。http://members.jcom.home.ne.jp/fullhalter/index.html
時計を見るともう3時半をまわっている。やばい! 新幹線の時間が迫っている! 去り難き席を立ち上がり、帰路につくことにする。「またね〜」とお二人。ええ人らやなあ。
東京国際フォーラムに立ち寄って、丸ノ内ビルの裏手のエノテカで帰りのワインを買って、それから新幹線ホームに入らなきゃいけない。大変である。靴が痛くなってきた足で急いで歩く。それにしてもコインロッカーに大荷物とダウンジャケットを入れておいて良かった。今日の東京は暑い! それらを取り出し、「飛び込みセーフ」という感じで席に着く。
ふと窓の外を見ると、見送りの人たちの中に僕より少し若いくらいの女性がいて、涙をぽろぽろ流している。隣の車両の人を見つめている。「きれいだな」と思った。どんなお別れなのか。
ハードなスケジュールでくたびれたが楽しかった。旅を反芻しつつぐでっとしていると、名古屋に差し掛かる頃ハマちゃんからメールが来た。品川から新幹線に乗ったとのこと。ハマちゃんも大阪に一旦戻ってきはるんや。ここ暫くはアクシデント続きで大変だったようで、「やっと帰れます」と前夜しみじみ語っておられた。この日は前夜同様てらサンと二人で行動しておられたはず。そのてらサンからもさっきメールいただいたが、いい旅をされたようだ。大人やなあ。


さあ今日はこうやって家でぐうたら過ごしたが、明日は職場で部屋の引越しである。僕が荷造りも年度末の書類の処理も一番のんびりやっているので、他のみなさんにご迷惑のかからないようにしなくては!