何度も観ることを強いる

 『鑑定士と顔のない依頼人
 これは面白い映画だった!
 主人公は権威ある美術品の鑑定士兼オークショニア。ひととの交わりを拒絶し、食事のときでも手袋を外さない。彼のもとに若い女からの電話で、親の遺品の鑑定の依頼があるが、依頼人は約束の時間に姿を見せず、鑑定士を激怒させる。後刻平身低頭で電話があり、渋々次回の約束をさせられるが、またしても依頼人は姿を見せなかった…。
 プライドの高い、潔癖症で人間不信の男と、広場恐怖症らしく十年以上も閉じこもって誰とも会わないという女が、徐々に心を通わせていく物語と、依頼人の屋敷から見つかった部品から、十八世紀の伝説的な機械人形がだんだんと形になっていく過程、更には鑑定士が詐欺すれすれの手口で、友人の画家とつるんで数々の名画(女性の肖像画ばかり)を密かにコレクションしている様とが、並行して描かれていく。幾多のトラブルを経ながらもやがてハッピーエンドに向かうかと見えたとき     これ以上書けん!
 まずはこれ以上のネタばれなしの状態で、一度最後まで観て驚いて欲しい。(これでもちょっとバラし過ぎたかもしれないが、興味を持っていただくためやむを得ず)。幸せなゴールを予見しつつも、常に漂う違和感。思わせぶりなセリフや登場人物の数々に、先が読めるような気もするのだが― やはり最後、唖然とさせられる。そして切なくなる。
 ただ、それでは一度見て結末を知ったらそれまでかというとそうではない。すぐ、もう一度観たくなる。そして、結果を分かった上で再見すると、最初から見え方が全然違ってくる。「これはそういうことだったのか!」という気づきの連続。そして、一度目ではとんでもないと思えたラストシーンさえ、違ったふうに見えてくる。もう一度、観たくなる。
 僕はたまたまチョンボしたおかげで、結果的にはラッキーな体験をした。過日書いた通りその日は映画三本ハシゴの予定を立て、前日にインターネットで席の確保をしておいた。ところが本作は何をアホなことをしたか、映画館で発券してみると誤って翌日のしかも違う時間帯の席を取っていたと気づいた。仕方なくその場でその日の席を取り直して観たのだが、前記の通りすぐもう一度観たくなり、翌日も少し無理をして、ネットで取っていた時間に再度劇場に足を運んだ。
 絶対、最低二度は観るべき作品だ。
 と確信するに至った、というわけ。
 その後、監督が映画撮影に先立って書いたという「小説のようなもの」が出版されいているのを知り、入手して読んだ。二時間あれば読める、ごく粗いものではあったが、二度観てもなお判然としかねる部分、殊に時系列をわざと乱して描かれていた結末部分についてスッキリできたので、これも鑑賞後に一読されることをお勧めする。
 たぶん、いや必ずソフトが発売されれば購入し、まだ何度も繰り返し観るだろう。この面白さは癖になる。役者の演技も、音楽も一流。できればたくさんの人に観て貰って、作品についてあれこれ語り合いたい! バー・メインモルトのマスターとは、過日短時間ながらちょっと夢中になって喋ってしまった。誰か、はやく観て、感想を言って欲しい!!

 ちなみに、本作同様、何度も観返さずにいられなくなる映画。
 『スイミング・プールフランソワ・オゾン監督 2004年日本公開
 (これまた監督の手による「原作」もありますョ)