利休三昧(五)

 最後に映画に関連して。
 1989年に競作公開されたのは、勅使河原宏監督作品『利休』と、熊井啓監督作品『千利休/本覚坊遺文』。前者は野上版(3)『秀吉と利休』を、後者は井上版(5)『本覚坊遺文』を原作とする。
 『利休』は華道家元である監督の美意識が全面に開花し、また長編で登場人物も多い原作を実にうまくまとめて、映画として見事昇華していたと思う。脚本を担当した赤瀬川原平の功績も大きいし、何よりキャストが素晴らしい。利休に三國連太郎、秀吉に山崎努。もうこれ以上はありえない、というハマり方だった。今回小説七作を読みながら、基本的にはどれもこの役者の顔が浮かんでいた。
 『千利休/本覚坊遺文』の監督熊井啓は、それ以前にもかつて今東光版(2)『お吟さま』も映画化している。こちらは見ていないが、それだけ利休には昔から強い関心を持っていたということだろう。完全主義で知られるこの監督のこと、本映画も実に厳しく仕上がっていた。主人公の本覚坊は奥田瑛二が演じた。これは大変よかった。が・・・・ 利休を三船敏郎、秀吉を芦田伸介が演じた、このキャスティングがちょっと・・・・。武人然とした利休に三船敏郎を、というアイデアは理解できないではないが、雰囲気、オーラはともかく、そもそもこの人、演技はうまいか? 国際派スターに失礼極まりないですが、どうです、本心、そう思ってる人は他にもいるのではと思うのだけれど。殺陣の見事さや存在感などで、黒澤映画ではうまく使われていたが・・・・やめよう。悪口を書きたい訳ではない。少なくともこの役には合っていると思えなかった。一方芦田秀吉は「借りて来た猫」のようで、権力者の片鱗も伺えなかった。もともとそういう役回りではあるけれども、いくらなんでも弱々し過ぎた。
 武人然とした利休であれば、むしろ後に大河ドラマ仲代達矢が演じた利休が僕には良かった。この映画で仲代が利休を演じていれば・・・・という妄想は止まらない。
 そして、既に予告編が公開されている『利休にたずねよ』。もちろん原作は山本版(7)の同名小説。主演は市川海老蔵。父、故団十郎との共演も早くから話題になっている。予告編のみで批評はできないが、晩年の利休をも海老蔵がそのまま演じるのは無理がないだろうか。父団十郎が健在であったら、作品の半分以上を占める年をとってからの利休は団十郎が演じる予定だったのだろうか。それなら、青年期は海老蔵で、これは実にうまいアイデアだったと思う。しかし海老蔵がほぼ特別なメイクもなく50代60代の利休を演じて、舞台ならともかく、映像作品で違和感はないのだろうか? 完成作を実際に観れば、そんな不安は杞憂だった、となるかもしれない。せっかく面白い原作であるので、いい方に期待が裏切られることを切に切に願っている。 (以上、おわり)