誕生日一ヶ月後(3/8)

 妻の計画では始め、誕生日のプレゼントは山崎蒸留所行きであった。ところが二月は多忙で都合がつかず、それならちょうど一ヶ月後ならどうか、ということになった。卒業式の翌日でもあり、休日出勤の振り替えをここに指定しよう、と。休日出勤はしょっちゅうあり(と言うかクラブやってたら基本ずっとなのだが)、当然その都度振り替え休は貰っている。けれど結局は出勤しているので形骸化している。しかし。さすがに卒業式の翌日くらい、本当に休んでも誰も文句は言うまい、ということです。実際にはそれでも次々とこの日に各種会議が入って来て「やっぱアカンか」と思ったけれど、今回はせっかくの妻の思いやりであったので何とか死守した。(実際の誕生日に近い日にもちゃんとお祝いはして貰ってるんですが。)
 ということでサントリー山崎蒸留所である。ウイスキー好きなら誰しもが行ってみたい蒸留所。逆に酒を飲まない者にとっては何の興味もなかろうところだけに、下戸の妻がここを選んでくれたのは感謝感激である。
 無料の案内コースがあるのでそれを申し込んでいた。毎日約一時間のコースを日に何本もずっとやっているのだから、宣伝とはいえ大変なサービスである。平日の昼間であるにもかかわらず申し込んだ二時からの会は人で一杯。年配の女性チームから学生くらいの男性二人連れ、外国人カップルなど様々な人が集まって来た。山崎蒸留所ではたくさんの種類の違うポットスチルが並んでいて壮観だ。本場スコットランドとは違いひとつのメーカーが自力のみで様々な種類のウイスキーを世に出そうとするとこういうことになるのだが、それでもこれは凄い間違いなく世界でも稀に見る光景だろう。貯蔵の樽の数もすごいのだろう。コースで見学したのはその中のごく一部なのだろうけれど、それでもこの貯蔵庫には一種独特の神秘を感じる。ここで永いときを絶えず呼吸しながら未知の変化を続けているかと思うと。
 そして最後には試飲。無料の見学コースなのに試飲まであっていいのか! 山崎10年と12年の飲み比べ(ハイボールと水割り)に加え、白州10年のハイボールも供され、違いを実感するには絶好。時間が短いのが玉に傷だが贅沢は言うまい。妻にはなっちゃんまで貰った。
 その後お楽しみのグッズショップと試飲カウンターへ。ショップには案外「ここでしか買えない原酒」みたいなのはなくちょっと残念。堂島にあるショップ「W.」でも買えるものがほとんどだった。が、妻が何か買ってくれるというので最近になって気になりだしたピンバッジをふたつ買って貰った。試飲カウンターでは何といっても気になっていたのが事前に聞いていた「山崎50年が飲めるらしい」という噂。一本百万円也という代物なので基本自分とは無縁の世界なのだが、それがたった10ミリリットル一万五千円という、興味ない人間にとってはアホちゃうかという値段ながら好きな者にとってはギリギリ手が出ないではない価格で、雲の上の存在を口にできる機会とあって、ずっと「もし残ってたらどうしよう。やっぱりこの機会に飲んでおくべきか。ああでもなあ、やっぱり高すぎるよなあ、アホみたいやんなあ」と、ぐじぐじと思い悩んでいたもの。
 ま、結論言いますと「昨日で全て売り切れてしまいました」。むしろスッキリして、で、選んだのがブレンドウイスキー「響」17年の構成原酒の中のミズナラ樽のもの。これこそ蒸留所ならでは、では? と深く納得しながら味わった。
 他にもサントリーの歴史を振り返る様々な展示物も、貴重なものが沢山あり、いくらでも時間を過ごせる。実は三日後にも来ることになっているのでこの日は軽く済ませて楽しみを取っておいた。
 その後大阪に戻って、過日入れなかった「びんびや」で晩飯。噂にたがわぬ美味さに大満足で二度目の誕生日祝いを締めくくった。