メーカーとしてのスタンス

 ことは万年筆という限られた範囲の話ですが、いろいろなところに通じる部分があるのではないかと思います。まずはこちらを。
http://members.jcom.home.ne.jp/can-do-now/fullhalter/pelikan_101n.html
 ペリカンというドイツの老舗万年筆メーカーが、1930年代に製造していた茶縞のデザインのモデルを復刻することが決まりました。これは約7年前にペン先調整職人の森山さんが呼びかけられた署名に応じて、ペリカンの日本代理店が粘り強く本社に申し入れし続けて実現したものです。茶縞の(正しくは「M101N トータス シェル ブラウン」というそうですが)デザインは日本市場でしか人気がないタイプだったそうです。こういうことって、極めて異例だと思いませんか? たとえばハリウッド映画などは日本市場が強力なマーケットなので、日本作品のリメイクなど頻繁にされていますが、そうではなく、全世界規模のメーカーが、全体的に見れば大して売れないことを承知の上で、それでも自社製品に強い愛着を持つユーザーの思いを酌んで企画を通してくれるなどど・・・・。
 7年前の署名には僕も参加していましたが、74人という人数を多いと取るか少ないと取るかはともかくとして、正直僕は嘆願の実現は期待していませんでした。叶えばこんなに嬉しいことはないが、そんなことしてくれる筈はないだろう、と思っていた。しかし、世の中捨てたものではないのだな、と、ものすごく感激しています。勿論これには声を上げられた森山さんの熱意と氏の業績に対する業界の敬意あってのことだろうし、それを受けてのペリカン・ジャパンの方の誠意と粘り強さあってのことだと思いますが。
 これに対してモンブランは対照的なメーカーだと思います。モンプランもペリカンと双璧成すドイツの老舗万年筆メーカーです。年配の方なら「万年筆といえばモンブラン」というイメージをお持ちなのではないか。そのモンブランは、数年前から「総合メンズファッション・ブランド」として生まれ変わろうとしています。鞄や装飾品など幅広く手がけ、商品の販売は自社が指定した有名大手デパート等に限定し、小さな個人店では扱えないようにしました。これに伴い上記の森山さんも、モンブランの万年筆は販売・調整ができなくなってしまった。という話は、実は数年前この日記でも取り上げたことです。モンブラン社員としてキャリアをスタートさせ、モンブランの製品を愛し続けた森山さんに、これ以上の仕打ちはないと思うのですが、森山さんは、これは高い品質を自負する物作り・販売メーカーとしては当然考える方針だ、と理解を示し、肯定的に受け入れられたのです(こちらに氏の記述ありhttp://members.jcom.home.ne.jp/fullhalter/montblanc02.html)。そう、それは、メーカーとしての方向性の違いという問題であり、どちらが良い・悪いではないのです。
 メーカーには当然「信頼」が求められます。ユーザーに対する信頼を、どのように体現するか。その姿勢の違いということです。「世界的」と言っても、正直先細りが保障されているような、「万年筆」という文化遺産みたいなモノを扱うメーカーとして、生き残りも含めてどういうスタンスを取るかということです。ペリカンを愛するファンもあれば、これからのモンブランに惹かれて行くユーザーも生まれることでしょう。ものを作る・生む・そして売るということ、綺麗ごとでは済まされない世界です。
 ただ、僕がどちらを支持するかは自明のことであるのですが。


今日もメンテナンス。ペリカンの万年筆。