「シルバラード」と「ペイルライダー」

 1985年公開の西部劇、という以外に二作につながりはない。ただ、当時全く西部劇が売れなかった中で打たれた渾身の一作、という点では共通しているだろう。どちらも西部劇の伝統を強く意識して作られている。
 ただ、その「過去の伝統の影響」の顕われ方、意識のしかたは、二作品で全く異なる。
 「シルバラード」は、ローレンス・カスダン念願の西部劇ということもあって、思いつく限りの西部劇のエッセンスをこれでもかとばかり詰め込んでいる。詰め込みすぎたと言ってもいい。画面作りも、極めて高いレベルでではあるが至る所「いかにも」という構図・アングルである。よくウエスタンを題材としたCMやポスターがこういう画作りを模倣しているのだが、なんだか逆にこの映画のあちこちがそういう宣伝の再現であるような錯覚さえ起こしてしまう。ただ繰り返すが完成度は高く、画面や場面がいちいちスカッと決まる。
 しかしなんと言っても、この作品の魅力はキャスティングだろう。スコット・グレン、ケビン・クラインダニー・グローバーケビン・コスナーと、主役級がズラリ。それぞれに魅力的な個性と背景が与えられていてみんなカッコいい。今続編を作ろうと思っても(歳のことはさて置き)ギャラの高さで成立するまい。画と役者を観る映画と言ってもいいかもしれない。
 対して「ペイルライダー」は、あらすじだけ見れば往年の名作「シェーン」と同じである。しかしこれを以って「シェーン」のリメイクだとか焼き直しだとか言うのは違うだろう。主人公はクリント・イーストウッド監督自身の過去作「荒野のストレンジャー」を彷彿させる。あえてリメイクと言うならむしろこちらだろうが、それも少し違う気がする。語りつくされた展開に、見たことのあるキャラクター。しかし、イーストウッド監督の作風の転換点とも目される本作は、何とも言えぬ沈鬱な空気に満たされている(その一方で画面は息を飲むばかりに美しいが)。監督自身が演じる主人公「牧師」は一体何者だったのか? 保安官との確執とは一体どういうものだったのか? ということは明確には語られず、そこを不満に感じられる向きもあるようだが、どうしてこれ以上の描写を求めるのだろう? と思ってしまうくらい既に完璧な演出である。二度観れば判ることが一杯あるだろう。やはりこの作品は凄い。
 スコット・グレンの、少年が誘拐されたことを聞かされてガラッと変わる目つき、イーストウッドが鉱山主や保安官を睨む眼光。どちらの凄みに軍配を挙げるか。胸の中では決まっているが、これは好みというものだろう。
 全く作風は違うが、西部劇復興を期して作られたこの二作以降、ぽつりぽつりとではあるが、再び西部劇は名作を輩出することになる。