「私の中のあなた」映画・原作

 11歳のアナ(原作では13歳)は、白血病の姉ケイトのドナーとなるために遺伝子操作で生まれた少女。ある日アナは弁護士を雇い、これ以上の臓器提供を拒むため両親を訴える。姉を愛し、その快復を心から願っていたはずの娘の突然の行為に両親は戸惑う。アナの真意は?

 様々なテーマ性を孕んだ作品だ。意図的にドナーとして子を産んでいいのか? 命とは? 家族とは?
 殊に大きいのはデザイナー・ベイビーの倫理的問題。日本ではあまり馴染みがなく絵空事のようにも見えるがこれは現実問題で、だからこれについては真剣に向かい合わなければならないところだ。だが本作はここには深く踏み込まない。家族の愛情の問題として、一番に取り組んだ作品と思える。作品に対する感想もやはりそこに集中しているし、その点に不満を覚える人もいると思う。
 ただ白血病の子を持つ家族の、父、母、兄妹それぞれの複雑な想いを、視点人物を入れ替えつつ語ることによって本当に見事に描いていると思う。殊になかなか共感できない母親・・・・ケイトの治療が最優先で、自分のことは勿論家族の総てがそうであることが当然のこととしてなりふりかまわず行動してしまう・・・・をしかし誰も批判することはできず、家族の誰もが出ない正解を求めて必死で生きているしお互いを愛しているのだということを深く納得させてくれる。その点で、多く異なる部分を持つ映画は原作の精神を厳密に受け継いでいたと感じた。
 映画の原作との相違をいちいちあげつらえばキリがないが、集客しか頭になくてテキトーなことをする作品とは違ってそれぞれの変更にちゃんと意図があることがよく判る。最も大きな違いであるラストの問題は、多くの方の感想同様僕も映画版が自然で納得のいくものと感じたが、これは、より普遍的に受け入れられるものになっているのだと思う。原作のラストには読後暫くは呆然となったものだが、ただ、「命は人間の意志ではままならぬもの」というメッセージと、そしてタイトル(無論原題 my sister's keeperも含めて)の意味は、原作小説により明確に含まれている。
 映画では削らざるをえなかったキャンベル弁護士と訴訟後見人ジュリアの物語も含め、より家族たちの細やかな心のひだに触れるため、上下巻にわたる原作も一読されることをお勧めする。