「金のゆりかご」北川歩実(集英社文庫)

 タクシー運転手の野上の許に、GCS幼児教育センターから高額の入社要請が舞い込んでくる。彼はこのGCS、そしてGC理論提唱者で彼の父近松から捨てられた、かつて「天才少年Y」ともてはやされた人物だった。近松を恨む野上は父の意図を図りかねるが、やがて九年前のGCSのスキャンダルの噂、彼が少年の頃関係のあった女性の関わりを知り、GCSへの入社を決意する・・・・。
 本当にGCS理論で天才脳は形成されるのか? そのGCSで狂った子が出たというのは本当か? 天才しか愛さなかったはずの近松が今頃自分を呼び寄せようとしたのは何故か? 
 次々と謎が押し寄せて来ます。そして「天才とは」「人の命に価値の違いがあるのか」「どんな子でも自分の子を愛せるか」「自分とは」更に読み進めるに従って様々な問いかけが迫って来ます。終盤物語は二転三転四転五転・・・・どんでん返しのつるべ打ちが来ます。そして最後に意外な首謀者が顕われる。
 ラスコーリニコフ的な少年に慄然とすると同時に、そんな子にした科学者のエゴにも暗澹とした思いになります。少しテーマがてんこ盛り過ぎてもう少し掘り下げを期待したかった部分もありますが、人物たちの感情はリアリティがあります。なんとも切ない物語ですが、読み応えありました。