本「啄木鳥探偵處」伊井圭

 これで「きつつきたんていどころ」と読みます。
 がいこつ氏のブログの記述で興味を持って読んでみたもの。かの有名な歌人・詩人石川啄木が、同郷の先輩で国語学者金田一京助と組んで探偵を始めた。日々のたつきの為に。というお話。
 浅草十二階をはじめ明治末年の風俗をふんだんに取り入れ、魅惑的な世界を描いている。何より実在の人物を「もしも」の世界で描く趣向はとても興味をそそられる。啄木と金田一京助の関係は周知の通りで、また啄木もさもありなんと思わせられる巧みな人物造形。傲慢で自分勝手、女好き。でもどうしても憎めない。きらきらとした才能がある。最終話には特別ゲストが顔を出し、思わずその「素材」となった短編小説も読み返してしまった。
 ただ、ミステリーとしては残念ながら楽しめなかった。どうも無理やり感が否めない。根本的な「それを言っては」的な話になってしまうが、これが探偵ものである必然性があるのかな、と個人的には思ってしまった。どうも啄木が探偵、というのがそもそもピンと来ない。有名な文士でもっと探偵をやりそうな、そして名探偵にもなりそうな人材が他にいくらもいそうな気がする。啄木に振り回される京助も、かわいらしくもあるのだけれど時に度を越してあまりの愚鈍さに苛々してしまうことも。性格の悪い啄木にでなく人の良い京助に苛々してしまうところがまた面白いのではあるけれど。実際のディティールを巧みに織り込んであるし、急速に変わり行く文化を背景に据えたあたりは実に見事なのだ・・・・。
 満足と残念さの相半ばする作品だった。