もう一度だけ、「スカイ・クロラ」

 森博嗣の原作シリーズを通読しました。
映画版「スカイ・クロラ
 ↓
スカイ・クロラ」(原作第1巻。時系列で言うと第5話)視点人物カンナミ・ユーヒチ
 ↓
ナ・バ・テア」(第2巻で第1話)視点人物クサナギ・スイト
 ↓
ダウン・ツ・ヘヴン」(第3巻で第2話)視点人物クサナギ・スイト
 ↓
「フラッタ・リンツ・ライフ」(第4巻で第3話)視点人物クリタ・ジンロウ
 ↓
「クレィドゥ・ザ・スカイ」(第5巻で第4話)視点人物 ???
 ↓
スカイ・イクリプス」(短編集)
 ↓
再び「スカイ・クロラ
 読み終えてみると、映画版が実に原作の世界を解り易くまとめていたことかと痛感します。まだ「ナ・バ・テア」までしか書かれていない時点で脚本に着手したということらしいのでそのせいもあると思いますが、解り易すぎて「単純化された」と感じるくらいです。原作を全部読むと、映画版も原作の「スカイ・クロラ」も、相当違った印象・解釈になってしまう。特に、これは原作にも映画にもある叙述で気に入っていたのですが
 少なくとも、昨日と今日は違う。
 今日と明日も、きっと違うだろう。
 いつも通る道でも、違うところを踏んで歩くことができる。
 いつも通る道だからって、景色は同じじゃない。
 というモノローグ。これの印象が、まるっきり違ってしまっていた。
 (ここから多少ネタばれあります)一番のポイントは「クレィドゥ・ザ・スカイ」で、上記のように、これ、語り手が誰なのかがわからない。最初は前作の続きでクリタ・ジンロウなのだと信じて疑いもしなかったのに、それがやがて揺らいでくる。最後に至って彼は「カンナミ」と呼ばれ、それなら確かに「スカイ・クロラ」で語られたようにクリタがカンナミになったのかと判断できそうなものだがことはそう単純ではない。「ダウン・ツ・ヘヴン」でちらっとだけカンナミが登場していたのも気にかかる。そこでカンナミはクサナギと出会っているのに「スカイ・クロラ」ではまるでそれが記憶にない様子・・・・。ああ、未読の方にはなんのこっちゃさっぱり判りませんね、すみません。(結局「クレィドゥ・ザ・スカイ」での「僕」とは誰なのか? という疑問は「解けない謎」ということになるのだろうけれど。こちらでまとめられているのが納得のできる整理だと思います。http://www7b.biglobe.ne.jp/~radical/books2b.html
 結局、このシリーズは通してクサナギ・スイトの物語だったのだな、と今にして思う。そうすると、やはり「スカイ・クロラ」のラストはああでなければいけない。映画はもはや完全に別物と感じられる。もちろん、それで良いのだけれど。しかし、ああ、面白かったな。