けれど

 先の一週間の出来事を、ネット上で書くことはできません。ただそれは僕がこの職場での進退を考えざるをえない程の大きな出来事でした。

 けれど。
 この詩を読んでしまうと、なまなかなことで逃げてしまうことのできない厳しさを突きつけられてしまいます。文字通り「言葉」に対してもそうだし、僕が好き好んで選んだ仕事に対しても。
 今朝の新聞に一部載っていた、田村隆一の「帰途」。


「帰途」田村隆一

言葉なんかおぼえるんじやなかつた
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかつたか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかつたら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんやなかつた
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたつたひとりで帰つてくる