誘惑

デクスター・ゴードンもいいねえ

 吹奏楽部の男の子とだべっていたら、当然のように楽器の話になった。
「先生えらい詳しいですね」
「ジャズ好きやからな。本や雑誌読んどったら、いろんな話出てくるわなあ」
「先生、やってみましょう!」
「いやいや・・・・俺は小学生の時点でリコーダー落ちこぼれた組やがな」
 先の3年生が卒業して、吹奏楽部は深刻な部員不足である。教員まで勧誘しよる。こないだも別の先生がチューバを始めたところだ、だの、楽譜読めない子が5日目でもう結構吹いてますよ、だの・・・・。それは昨日の話で、今日は2年の先輩二人が職員室までスカウトに来よった。こっちはもっと強引だ。
 そりゃあさあ。楽器吹けたらなあ、なんて、ずっと昔からの憧れさ。それをタダで懇切丁寧に教えてあげるというのだから、正直これは魅力的だ。だが現実問題、これは無理。ここで仲間に入るということは、自動的に吹奏楽部の顧問の一員になるということ。いや、部員になると言うべきか。物理的に無理だ。仕事一切放り出していいなら、テナーサックス一筋に励むのも楽しいだろうなあ、と夢想するが。早くも脳の一方では颯爽とテナーを吹く我が雄姿の妄想が。
 いやいや、今夜も贔屓のプレイヤーのブロウに聴き惚れるとしよう。