桐野夏生「ダーク」

ダーク

 ものすごいと思う。このパワー。
 村野ミロを主人公とする小説としては4作目だったか、5作目だったか。だから最初、初めて桐野作品を読むに当たってはシリーズ第1作「顔に降りかかる雨」から行こうと思っていた。ところがおりえが勧めてくれたのは「あえて先に『ダーク』から。」というものだった。単純に、単行本の表紙と題名から一番惹かれていたのは「ダーク」だった。こういう嗅覚は大切にするべきだな、と改めて思った。
 先に「パワー」と言ったが、何と言うべきか。「不当なパワー」などと意味の判らない表現をしたくなる。本作は、シリーズのこれまでのファンをものすごく当惑させたらしい。あからさまに不快感を表明されている方もおられる。それほどに、シリーズのこれまでの登場人物たちを破壊しているらしい。とにかく、登場人物の誰にも共感はできない(なんか最近この書き方よくするなあ)。みんなむちゃくちゃである。「いい人」なんてひとりも出てこない。でも、そのことごとくがものすごい説得力を以って迫ってくるのだ。ありていな表現で言えば「業」というやつか。あらゆる人物がその業に引き摺られて自身でも理解できない変貌を遂げながら突っ走る。これは、完全に作者は登場人物を好きに暴走させている。つまり作者さえも呆気に取られながら進んでいく。誤解のないように。物語の構成が破壊されているわけではない。先述の通り、説得力もものすごい。これは、女性の力技なのだと思う。女を主人公にしてこの展開。これは新しい小説だと思うな。きっとこの作に、作者の「らしさ」が端的に刻印されているのだろうと思う。もちろん、シリーズの先行作品も順に読んで行くつもりだ。シリーズとは違うが代表作「OUT」や直木賞を獲った「柔らかい頬」(当初村野ミロシリーズの一環として構想されていたらしい)も。
 困ったな。読みたい本が増えるばかりだ。とりあえずは、過日も書いた通り、お楽しみ高村薫「照柿」に行きたいのだけれど。夏休みももう終わるというのに。終わったら、即、文化祭に向けてのダッシュが始まるというのに・・・・。