小説「白夜行」

少女時代のこの子役が凄い

テレビドラマをやっていた時に、最初のうちだけちょこちょこ見てました。異様な暗さに惹かれました。が一方で主人公ふたりの「べたべた」ぶりが気になって、すぐに全然見なくなってしまいました。妻はずっと見ていました。きっと原作は全然違うのだろうな、という気がして本屋で文庫本を手にしたところ、そのあまりのぶ厚さに一度は躊躇してしまった軟弱者でした。が、やはりどうにも気になっていた上におりえが東野圭吾はいいと言うものですから(ついでに言うと職場でも相部屋の2年担任の方が東野圭吾は面白いとさかんに語ってられたのを耳にしていたので)、今回ようやく読むことにしました。
まずびっくりしたのは、ドラマでしょっぱなに描かれた「事の真相」というのが原作では全く謎のまま物語が進行していったこと。やられた、いきなりネタバレやったんか! と思いました。が、もっと言うと原作では主人公二人が全く視点人物になることなく、つまり周辺の人たちから見たふたりを章ごとに交互に描くだけでどんどん月日は経って行き、実際にどんなことが行われていたのか、主人公たちが何を考えていたのか一切触れられることなく物語は最後まで行ってしまったのです。せいぜい最後の方で刑事が「こうだったのだろう」ということを語る程度です。にもかかわらず、主人公ふたりの人物像や背負っていたであろう業のようなものが強烈に迫ってきました。これはものすごいことです。こんな描き方ができるのかと圧倒されてしまいました。また、ドラマで真相らしきものを先に見ていたおかげで、きっと一度読んだだけでは見落としていたであろうおびただしい伏線を、かなり読み拾うことができました。
改めてネットで検索してみると、ドラマ放映とリアルタイムで詳細にドラマと原作の相異を含めて感想を述べておられるサイトもあって、おおむねドラマがどんな感じだったかもつかむことができました。ドラマはテレビ「世界の中心で愛を叫ぶ」を製作したスタッフで作られたようです。僕が見た最初の方の主人公ふたりのべたべたぶりは、テレビドラマであることを考えるとある意味当然のシフトチェンジであったのでしょう。また後半ではどんどんそのべたつきぶりは消え、原作の主人公たちよろしく非情な人物描写が増えていったということのようです。原作であえて語られなかった部分を中心にふくらませて、そこをメインに描いていくというのは、原作サイドから見ればその意図を完全に崩壊させてしまう営為です。が、全く別物を再構築するという意味では相当面白いことをやったのだな、と思います。改めてドラマも見直して比較してみたいな、という気がしました。
しかし繰り返しになりますがこの原作の力技はすごい。いや力技と言っても大変な緻密さに裏づけられたものです。20年近い物語を、主人公を一度も視点人物にすることなく描ききってしまうのですよ。てっきり最後に謎解き編があるのかと思っていたらそうでもなく、大部分はやはり闇の中なんです。でも、「こうなんだろうな」というのがどんどん頭の中でつながっていく。本来ならばここでまた最初に戻り、直ちに再読すべきなのでしょう。ちなみに発表当初は短編連作形式であったとどこかに書いてありました。その発表当初の形も読んでみたいなあ。更にはこの物語の「その後」的な作品もあるらしく、まずはこいつを探して読んでみたいです。まだ文庫にはなってないのかなあ。
東野圭吾、もっと読んでみたくなりました。直木賞受賞作品はどうなのかな? いや、実は東野圭吾以上におりえが推薦する桐野夏生を読んでみなくては。この人も作品が多くてどこから手をつけていいか迷いますが、まずは「顔に降りかかる雨」あたりから行こうかなあ?