ワインは特別か(酒噺②)

コンティ、93年で65万円也

過日話題にした開高健の「知的な痴的な教養講座」、面白いですねえ。雑誌プレイボーイに連載されていたコラムだけに、イロ噺が多いのですが。
かつてサントリーウイスキーのコピーライターであっただけに好きな酒はウイスキーかと思いきや、どうやらそうでもないらしい。殊にシングルモルトは「(無骨ストレート故に)長く飲めるものではない」と。その中にあってマッカランはブレンデッドの如きバランスの良さで、と褒めていましたが。「ロマネ・コンティ・1935年」という作品もあるだけに、一番の嗜好酒はワインであるようです。曰く、ワインのみが味の違いを楽しめる酒だ、と。無論ウイスキーだって味の違いが楽しめるからこそ僕もこんなにハマっておるのですが、言わんとしていることは判るのですね。また、実の処それ故にワインには手を出せずにいるとも言えます。実は同じ醸造酒である日本酒も同じ楽しみがあると思うのですが、ウイスキー他の酒とは比べ物にならないくらい、確かにワインや日本酒は同じ蔵の同じラベルの酒で味が違う。年ごとに違う。気候にモロに左右される。同じ地域の酒でもちょっと離れた畑でもう全然違う。ここいらが多くの薀蓄を伴うことになり、よって多くのワインマニアが薀蓄好きと化す訳ですが。そして、自分がハマるのがそら恐ろしくて見ないフリしている世界なのですね。
多くマスプロダクションの製品は、飲食物の場合ですと味が均一であることが求められます。「いつ飲んでも僕の好きなアノ味である」ということ。これが品質保証であり、ブランドの証です。が、ワインや日本酒は違う。毎年どういう味で出てくるかわからない。そこが良い。シングルモルトだってそういう側面はあるのですが、やはり程度が違うのでしょう。ウイスキーには熟成にとてもとても長い時間を要するというところがまたロマンなのですが。
蕎麦屋松林の親父さんの言葉を思い出します。蕎麦には有名なお店がたくさんありますが、例えば大阪キタであればなにわ翁。あそこに限ったことではありませんが、まあ多くの場合やはりお店が心がけられるのは「いつでも同じ味をお客さんに提供したい」。まあ普通考えればそうですよね。ところが松林さんは必ずしもそうはお考えでない。時期によって「いい蕎麦」は産地を変えて取り寄せる。当然、風味は変わってきます。生きたものですから、季節によって変わっていくのはむしろ当然だ、と。変化もまた楽し。この考え方、すごく好きなのです。ワインの醍醐味は正にそこなのでしょうな。
相変わらず怖くてまだワインに傾倒する気は起こりませんが、開高先生のように飲み飽きるくらいあらゆる酒を飲み倒した方には、最後に行き着く先はワインなのでしょうか。我らが日本酒について氏が言及している文章を、たぶん僕が読む量が少ないだけなのでしょうが、まだ見たことがありません。生きていたなら是非ご意見を伺いたかったところであります。(なんて書いていたら、ありました。ちゃんと。それも同じ本のおしまいの方に。これについてはまた改めて。)