乱歩地獄

乱歩じいさん元気

映画、観てきました。これまた賛否両論分かれそうな、ナイスな一作。
乱歩作品ってこれまでにもいっぱい映画化、ドラマ化されてますよね。妖しいエログロ世界が興味を惹くのでしょうか。映像作家が自分の独自性を打ち出しやすい、という魅力もあるのだと思います。乱歩作品の映像化で、「原作と違うから許せない」なんてゴイケンはあんまり伺いませんな。
僕はまだ古い作品は当たってないのですが、個人的には「押絵と旅する男」(94年 川島透監督作品)が好きです。評判のいい実相寺版「屋根裏の散歩者」と併映でレイトショー公開されてたやつです。これは原作を大きく逸脱してしまっているのですが、正に監督のオリジナリティーを遺憾なく発揮できた作品だったと思うのです。テレビドラマで雰囲気だけ出そうとケレン味オーバーに作り込んでた諸作がこざかしく思えた。
奥山和由がプロデュースして黛りんたろうに監督させたにもかかわらず、これをボツにして自分で監督し直して公開したことが話題になった「RAMPO」は、そのプロデュース姿勢に疑問を感じた由当時講師をしていたM校で書いたら真面目な高校生に「見てもいない映画を批判するのは許せない」とお叱りを受けました。いまは両バージョンを観てみたいのですが、ソフトが出回ってなくてその機会がない。
「人でなしの恋」も映画化されましたね。あれなど作りはまっとうでしたが、なかなかの佳作だったと記憶しております。女性監督でしたよね。「双生児」、観てないんですよまだ。面白そうなんだけど。
本作になかなか話が行かない。
今回の作品はオムニバスでした。冒頭「火星の運河」は、ハッキリ言って意味わかりません。原作読んでたらまあわかるでしょうが。でも映画の導入としてはこれが実はなかなかの作用をもたらしていまして。ラスト近くまで全くの無音なんです。そして不可思議ないめーじ画が続く。緊張感があります。そして、映画館では珍しく、こちらがちょっとでも音を出すと目立つ! ひとり空気の読めない奴がいて缶ジュース開けるわスナック菓子食べるわ。でもそれが顰蹙買ってるのが空気でわかる。我々観客になんともいえん緊張感が生まれる。あれはなかなかよろし。短かったしね。
次の「鏡地獄」は実相寺昭雄監督。既に先述の「屋根裏」、「D坂の殺人事件」で乱歩作品映画化には実績がある。嶋田久作明智小五郎役に起用し、独特な映像センスと特異なエログロ味で大変好評。確かにイメージ合ってるし、雰囲気もいい。年配なのに実験精神も旺盛。作品を上手に翻案して、ただの映像化に終わってない。ということでちゃんと満足してますから、わざわざ批判することは何もないのだけど。あえて言うと世評がちょっと持ち上げ過ぎなんじゃないでしょうかこの監督。映像も、言ってみれば「これみよがし」だしね。この作品に関しては(明智探偵は本作のお約束で嶋田くんではなく浅野忠信。これもなかなかよろしい)乱歩のフェティシズムはないがしろになってたよね。繰り返しますが良く出来てるんですよ。文句言う筋合いはないんです。
次は「芋虫」。監督はピンク映画出身の佐藤寿保。ようこの作品を映像にしたよ。もう見てられん! 痛い! 出来が悪いという意味の「痛い」ではありません。乱歩の変態性が包み隠さず映像になってる。他の乱歩作品もブレンドされてて知ってる人はにやりとするだろうけれど、それでも松田龍平の役は余計。彼自身はいい味出してるんだけど。最後のオリジナルなオチを面白いと取るか不満と取るか。ああ、体力使った。本来乱歩作品を映画化したもんと対峙しようと思ったら覚悟いるんですよね。それを思い知らされた。
そしてラストは「蟲」。監督は漫画家のカネコアツシ。こいつは乱歩のすっとぼけた要素もわかってて、面白かった。なんと言っても密かにご贔屓の緒川たまきが出ているだけでよしとする。彼女を「姑獲鳥の夏」映画化作品のヒロインにするべきでしたよ実相寺さん。あ、あれは雇われ仕事でキャスティングにも無関心だったですね、失敬失敬。これは唯一原作を読んでないんですが、やはり狙いはだいぶ原作からは離れていたのかもしれません。いいんですよ。それは全然かまわない。
全作通して、「一方的な愛」というものが極端な形で描かれている、という面で、乱歩作品の一側面を上手に掬っていたと思います。全体にキャスティングも良かったし。見てる間はずっと辛かったですが、それこそまさしく「見てはいけないものを魅せつけられている」ということなんでしょうね。
これを契機に過去の乱歩の映画化作品一気にリリースされないかなあ。