じぇんとるまん

 時々帰りの電車で一緒になる、40代後半くらいの男性がいる。スーツ姿である。この人、電車で席が空いていても絶対に座らない。今日フとその後姿を見ると、パンツには鮮やかなセンタークリース。そして膝の裏にも背中にも、ほんのかすかな着皺さえない。正に「パリッ」とした紳士である。スーツに特に変哲はない。シャツも白。スタイルとしてはオールド・ファッションドなのだろうが、これぞ伊達者よ。
 もうお一人。
 僕が通勤に使っている鉄道の、乗換某駅の某線ホームは残念ながら大変ガラが悪い。朝など、(これはきっかけ作ったオッサンが居るのだが)禁煙もなんのその、ベンチ周辺がモウモウたる喫煙天国(地獄)と化している。僕は喫煙者をどうとも思わないが、明らかに人の迷惑たるを構わない喫煙者は嫌いだ。
 この中に、お一人だけ、スッとホーム先端まで歩いて行って、そこで風下を選んで1本吸う紳士がおられる。どれだけベンチ周辺が喫煙者どもの巣窟になろうと、必ずホームの端まで足を運んで煙草を嗜まれる。古い言葉が出たがこれぞ「嗜み」であろう。自分の好きなものを、しばし堪能する。ゆったりとした時間を味わう。これこそ人生を豊かにする極意であろうぞ。
 現代にも紳士はいる。