[本] 「代筆屋」辻仁成

代筆屋

 どうも辻さんとは相性が合わないらしい。読むのはこれで何作目かになるが読後感には共通項がある。全編至る所から匂い立つ(臭い立つ?)キザっぽさ。なんでそうカッコつけんのかなあ、と思う。あれが肌に合う人はファンになるのだろうなあ。それが作家の持ち味、というものか? ワカラン。
 と、のっけから否定的な書き出しだが、それにもかかわらず僕はこの本を生徒に推薦するつもりでいる。どうしてこの本を読んでみる気になったかというと、授業とかかわりがあったのだ。
 時々やるネタなのだけど、今1年生の選択の授業で「手紙とメール」というお題で授業をしている。向田邦子高村薫の大変いい随筆があってそれも使いつつやっているのだが、たまたまこのタイミングに3年生の自分のクラスの生徒が「読書記録カード」を出して来た。それが「代筆屋」の感想文だったのだ。作者が自身の若い頃の体験をもとにしつつ、手紙の代筆をしている若者を主人公にして書かれた作品である。おもしろそうだな、と思った。
 基本的には、下手だろうがなんだろうが、手紙は自分で書くもんだと思っている。大切な思いを込めたいと思うなら思うほど、そうだ。字のうまいへたなど関係ない。的確に効果的に文面がしたためられるかどうかさえ関係ない。手紙というものそのものに不可思議な力があって、どんな手紙であっても厳しいほど正直に書き手の気持ちというのが相手に伝わってしまうものなのである。だからできうれば、こういう小説は、とにかく自分で書くことが大切なのだな、というところに登場人物が気付いていく、というふうに持って行って欲しかった。作者がいかに上手に様々な手紙を仕立て上げていくかという自慢ではなく。
 しかしそれでも、若い、手紙など書かない人たちがこの本を読めば、手紙の持つ力や独特の風情というものには気付いてくれるに違いないと思った。作中登場する代筆手紙の中には「ウェ」と思うようなクサいものもあれば「これは巧い」と思うようなものもある。はじめに作者が書いていたように、これはある種の「手紙の書き方読本」だ。「こころ」の部分でそれを示しているあたりを読者が読み取れば、手紙を書くにあたって心掛けておくと良いというものもある程度学べるように思う。何より読みやすく、若い子が期待する「泣ける話」もある。かなりソフトだが。
 手紙も悪くないな。書いて見るか。そう思ってもらえるきっかけになるなら何よりだろう。そういう意味で、今やっている授業の中でなんらかの形でこの本は紹介してみるつもりである。