藤沢周平の『用心棒日月抄』シリーズ4冊読了

村上の旦那

僕にしてはスムーズに読みきった。暫く時代劇ワールドに浸っていた。
かなり前NHKでやっていたドラマ『腕におぼえあり』を思い出してその原作を読み始めたということは過日書いた。
このドラマシリーズ(後に「2」も製作された)で描かれたのは第1作『用心棒日月抄』と第2作『孤剣』だが、テレビで『腕におぼえあり 2』が始まった時、てっきりこれはNHKが勝手に作った続編だと思っていた。が、実際には原作がちゃんとあり、しかも更に第4作まで続いていたということだ。テレビの方は主要キャストをよく覚えていて、読んでいてどうしてもその役者の顔や声がチラついて閉口したが、物語の方はかなり忘れてしまっていた(ドラマ化でかなり脚色もしたようだが、基本的には原作に忠実だったようだ)。
北国の小藩の青年藩士青江又八郎(テレビでは村上弘明が演じた)が故あって脱藩し、江戸で用心棒として糊口をしのぎながら藩の暗闘などにかかわっていく、という設定は、第3作『刺客』まではまあいわばワンパターンである。当初は第1作のみのつもりだったのだろう、赤穂浪士討ち入りを絡めて進む物語であるこの第1作が、やはり一番よくできている。が、後から後から話を書き足して行ったにもかかわらず、ちゃんと前作でチラと出てきた人物を次作の要に据えてあり、全く破綻もなくご都合主義もない。また各話用心棒噺の顛末が短編としてまとまっていながら、全編通して大きな物語が進行する長編としても骨太な仕上がりになっており、飽きない。うまいなあと思う。また特筆すべきは、基本的にシリアスな時代劇でありながら全体にユーモラスでもあって、こういうのは独特なのではないかな、と思う。とても親しみやすい人物像と作品世界を構築していた。
最終作『凶刃』だけはちょっと作りが違っている。3作目からかなりの年月を経て、作者晩年の作として書かれたものだ。作品世界でも前作から16年後という設定で、主人公の青年剣士も40代(当時としてはそろそろ老境に差し掛かる年代)。今度はきちんとした藩命で江戸に上るのであり、用心棒はやらない。旧シリーズの登場人物たちも年をとった。短編連作ではなく長編謎解きという体裁である。ユーモアは残しつつも全体に寂寥感が漂う。わざわざ古い人気シリーズを引っ張り出してきて再開させるだけのことはある、渋い作品に仕上げてある。読後は爽やかでもあった。
しばらくこのシリーズにドップリだったので、もうおしまいかと思うとチと残念な気がする。しかし最後はうまく切り上げたなあ。4作どれもそうなのだが、ラストシーンがあっさりしていて却って読後感を残す。テレビドラマをやってもうかなり経つし、最終作を同じキャスト集めてやってみたら面白いんじゃないかな? あー、でもこれはもうちょっと渋いキャスティングがいいかな。前のドラマはなかなか絶妙なキャスティングじゃなかったかな、と振り返って思いはするが(除く、片岡鶴太郎)。勝手なこと言ってる。

しかしなあ、うっかりすると時代劇コトバで喋りそうになる。この日記とて妙に古臭い単語が混じっていたのではあるまいか。ま、もともと語彙が古びたチグハグな喋り方をしてよく笑われてるんですが・・・・。