不屈

昼食をとった中華料理店、座った正面がいけすになっている。見ると、大きな巻貝が、水槽のガラス面をつたって、何度でも何度でも水面に向って登って行く。当然行くとこまで行き着いてしまえば、落下するしかない。それでもまた行く。
あれは、何なのだろう。「不屈の根性」というのではあるまい。ただただ本能的に、ひたすら脱出を試みるのだろうな。単純な連想だが、映画「パピヨン」を思い出す。細部は忘れてしまっても、あのラストは心から離れない。脱走不能の孤島の刑務所。それでもひたすら脱走を試みては失敗を繰り返す囚人(スティーブ・マックイーン。大好きな俳優)。行動を共にする囚人にダスティン・ホフマン。最後、ついに刑務所からの脱走に成功するマックイーン。とは言え、断崖絶壁から荒波の海に飛び込んで、そこから生きて陸に泳ぎ着ける確率はほぼ皆無である。それでも、解放の悦びを噛み締めるマックイーンの表情。対して、それを泣きながらただ見送るホフマン。死のうとも、自由がいい。それがパピヨンの選択だった。死と引き換えにはできない、それがルイ(ホフマン)の選択だった。人間は選択する。どっちが正しいかなんてわからない。脱獄の映画って多いけれど、既にこの作品で全て完結してしまっていたように思う。
あの貝は、なに考えながら登りきれない水槽を登りつづけてるんだろうな。なんも考えてるわけないか。