ミスター・ブラウンの思い出

 今日の僕の服装は、ジャケット、ネクタイ、ベルト、靴下が茶色でした。同じ色で合わせられれば無難なんです。
 僕が中学生の時、いつも茶色一色のコーディネイトをしていた国語の先生がいました。同じ服を着ていた訳ではないんですが、常に茶色一色。髪の毛も瞳の色も茶色。色白でしたから地だったのでしょう。陰で「ブラウン〇〇〇〇」と呼ばれていました。別にその人の真似をした訳ではないんですが、不意にその先生のことを思い出しました。

 ある日の授業で、ある質問に誰も答えることができず、僕のところまで無解答で回って来ました。僕は近所の年上の人から譲って貰った参考書で予習をしていた書き込みが正にその問いの答えになっていたので、それをそのまま答えました。
 ブラウン先生は暫し無言でじっと僕の顔を見た後、「それは自分で考えたのですか」と問われました。思いがけなかったのでとまどってしまい、小さな声で「はい」と答えてしまっていました。先生は、「そうですね。それで正解です。何も付け加えることはありません」と仰って、授業を続けました。
 そのとき、貰った本がいわゆる教科書ガイドというやつなのだと気づきました。以後、その本を開くことはなくなりました。
 その授業のあと、ブラウン先生とすれちがうのがものすごく気まずくなりました。思い切って「あれは教科書ガイドに書いてあったことでした」と自白したいとどれだけ考えたか知れませんが、当時の僕にその勇気がありませんでした。以後の授業で、ブラウン先生が肝心な問いを僕に回すことは決してありませんでした。

 あれからかなあ。どれだけ難しくても、自分の「読み」を大切にしようと思い始めたのは。あのクールなブラウン先生には感謝しています。