飲み方・ひとそれぞれ

 或る日のバー・オーガスタに初めて来店というお客さんが、カクテルのレシピの細部までオーダーされる、明確な好みを持ったお方であった。
 カッコいいなあ、と思う。東京を故郷に持ちつつ全国様々なお店にも行かれる機会があるようで、どんなお店に行っても、ベースのお酒の銘柄からレシピの加減まで、長年の工夫の結果得られたご自身の好みを指定なさっておられるよう。
 そんな完璧な好みを確立されているなんて、すごいと思う。
 僕などは、スタンダードなカクテルなどは特に、その店々、バーテンダーさん各々の味を、その違いの妙を楽しもうと思ってしまう。あって無きが如き好みを申し上げるのは、次の盃、次の来店時以降、ある程度馴染んでからとなる。だってその方が楽しい、と思ってしまう。楽しみは人それぞれやねえ。
 既によく知って貰っているオーガスタさん、さかきばらさんには、「遊んで下さい」とお願いすることが多い。雑誌で見た「ウエストコースト・ジャズ」のイメージというテキーラギムレットのロックスタイルも、その本のレシピよりお店の味優先で、とお願いした。テキーラ風味の濃厚な、カリフォルニアよりは国境の南を思い浮かべる味になったけれど、とっても美味しかった。それでもロックだから後半はよりライトに。これが狙いだったのかも。
 若いキルホーマンを使った、ロブ・ロイならぬ「キル・ロイ」というのも面白かった。こんな楽しみは、それこそ馴染んだお店なればこそ。
そうそう、好みを確立された粋なお隣さんだったが、残念に思ったことも。
 ひとが(僕が)オーダーしたカクテルを作ってシェイカー振ってるバーテンダーさんにもずーっと喋りかけ続けてるのは、ちょっと良くないのでは。
 ハイボール一杯であれ、僕自身はお酒を作っているバーテンダーさんには話しかけないようにしている。勿論手練れの作り手の方々、少し話しかけられたくらいで手許が狂いはすまいが、それでも数あるバーテンダーさんのお仕事の中でも「酒を作る」これが一番のキモであり華でもありましょう。そこを邪魔するのは無粋だと思うし、逆に作りながら平気でぺらぺら喋り続けてるバーテンダーも御免だ(もちろん客から喋りかけられたら無視はできますまいが)。せっかくならお願いした一杯は、気持ちをを込めて作って欲しいと切に願います。それは傲慢でしょうか? バーに行く目的は数々あれど、僕の最大の目的は、やはり旨い酒が飲みたいということなのだけれど。(まあ、それと同等に、好きなバーテンダーさんに会いに行きたいということでもありますが)
 これまた、ひとそれぞれだ。