『桐島、部活やめるってよ』小説・映画

 学園ドラマや熱血教師ものが苦手な方だ。これは子どもの頃からで、よく「金八先生見て『先生になろう』って思ったんでしょ」と言われるけれど、あのドラマも苦手意識からほとんど見たことがない。教員になってからは尚更で、もしかしたらドラマとしては面白いのかもしれないが、あまりに非現実的に「そんな学校・そんな教員・そんな生徒がおるわけないやろ」と思ってしまって、とても見られない(偏見ですよ。きっとリアリティのある学園ものだってあるのかもしれない)。
 それが、この作品は違った。現実すぎて辛くさえなった。
 高校生って、なーんも考えてない一面がある一方で、本当に繊細に、窮屈に、日々を生きている。その息苦しいまでの切なさ・切実さが迫ってくるのがこの作品だ。
 原作小説はそれを心底リアルに描出している。各章視点人物を固定してモノローグで進むので、この点、小説の方が深く繊細に切り込んでいる。
 一方で映画はやっぱり映画だ。「見せ方」も映像としての緊迫感に溢れているし、何より映画部が「別物」と言っていいくらい生々しくなった。ゾンビ映画! 正にそれしかない! というポイントだ。ラストシーンだって、コトバがないことによってたまらなく胸に迫ってくる。
 むろん原作小説と映画版との違いは表現様式の差異から来るものだけではない。タイトルでありながら姿を見せることのない桐島の扱いも違う。橋本愛という女優によって命を吹き込まれた東原かすみというキャラクターもその佇まいは随分違う(しかしこの若い女優さんは、これから押しも押されもせぬ日本映画界の寵児になるんだろうなあ)。誰が誰を好きだとか、細かいところも結構違うが、前田涼也と菊池宏樹の邂逅に収斂する道筋が違うのであって、大切な「核」は見事に共有された、稀有な原作と翻案の幸福な姿であったと思う。
 発売されたソフトに付属する特典映像の、「フェイクインタビュー」と「短編エチュード」を見ると、役者さんたちが生き生きと各自の役柄に寄り添っていることがわかって面白い。併せて鑑賞をお薦めします。