映画試写会『孤高のメス』(意外と長文になった・・・・)

 原作は文庫本で6冊にもなる長編なので(更に元々は漫画作品だったものを原作者である医師が自らのペンで小説化したということだそうだが)、ごく一部のエピソードであるだろうし、相当違いもあるのだろう。確かに物語の前後、登場人物の背景に、もっといろいろな物語を感じる。
 映画の作品紹介を読んだ段階ではなんだか胡散臭いものを感じたのだけど、実際に観てみれば上手に映画作品としてまとめられていたと思う。
 医療の世界に限ったことではないだろうけれど、現場にいる人間にはその現場の矛盾点や不合理、理想を押し潰す厚い壁に悶々とするものだ。それを架空世界において理想の人物像により理想の行動をさせれば、溜飲を下げることもできるし、上手にすれば社会的な問題提起にもなる。同じ医療の世界を舞台にしたバチスタシリーズなどは、(出来不出来はあるにせよ)それをうまいことエンターテイメントとして成立させていると思う。本作も「こういう先生がいてくれたら」と思わずにいられない格好よさがあった。やはり作者の理想像なのだろう。堤真一もとてもいい。
 ただ、「問題提起」と言えば、本作を観れば誰しも昨年可決された改正臓器移植法に積極賛成の気持ちを持つだろうが、この点に関しては個人的には留保せざるを得ない。僕自身脳死判定については確固とした意見が持てずにいる。揺れているのだ。脳死を死と判断して臓器移植を実施するということは、医療現場にいる人にとっては目の前の多くの苦しんでいる患者さんを思えば解禁を心待ちにする気持ちが当然強いだろう。が、慎重論も僕はすごくよく分かるのだ。どちらかというとやや慎重派だと言っていいくらいだ。だから当然この問題については危険性もあり主人公が何度も言いきるように本当に「これしかない」のだろうか? という疑問も湧く。無論ストーリーの中であくまで主人公の医師としての志はどこまでも純粋だ。が、作者は現役の医師である以上問題点も当然承知している筈であり、やや一方への「誘導」的な意図を感じてしまった。
 そんなことは考えず、物語として素直に感動すればいいのだろうけれど。何故か今回に限っては、原作である小説や漫画と比較してみようという気はしてこない。いつも比較好きなのに、珍しいことだ。単なる根拠のない直感で、この映画が相当良く原作を翻案しているという気がしているのかもしれない。