映画『3時10分、決断のとき』

 貧苦に喘ぐ農夫のダンは、南北戦争では狙撃の名手だったが片脚を失い、今は借金がある地主からは執拗な嫌がらせを受け、息子からは信頼されず冷たい目で見られている。ある時名高い悪党団の首領ベンの逮捕を目の前にし、200ドルでベンの護送をすることを申し出る。3時10分発ユマ行き(原題の意味がこれ)の列車に乗せなければならない。手下どもが首領奪還に来るのは必定。危険な旅が始まった・・・・。
 話題作ではなかったけれど良い評判ばかり聞いたので是非観たかった。期待に違わぬ作品だった。
 ラッセル・クロウ演じる首領のベンが魅力的。冷酷で激しく気分屋だが、懐が深く知的で、人間味溢れている。対する、クリスチャン・ベイル演じる農夫ダンは、はじめ卑屈な守銭奴みたいだったが、胸に秘めた「息子に誇れる自分でありたい」という想いが滲み出てきて感動的だ。この二人が旅の過程で互いにない部分に惹かれ合っていき、ついに最後の「奇行」に出る。これが泣ける。「馴れ合い」になり過ぎないのがいい。
 ちらほらと『グラン・トリノ』『レスラー』と併せて今年の「男泣き3部作」だと表現されているようだが本当にそう。『レスラー』と本作は、やっと日本で日の目を見た「遅れて来た名作」なのだけれど。
 他の出演者も皆いい。狂気の(最後は悲劇の)副頭目、執念の老賞金稼ぎ、次第に父への認識を変えていく息子、その他の登場人物もみんな人間臭くていい。マンゴールド監督は素晴らしいと思う。本作は旧いB級西部劇のリメイクだが、リメイク作品が「なぜ今改めて作られたのか」という必然性を持った、「名リメイク」だ。と言うためには旧作も観ているべきなのだが残念ながらそれはまだ。絶対観てみたいと思っているが、本作のこの「父と子の物語」という側面は、リメイクであるこの作品のオリジナルと聞く。その点を指しての前言である。これぞ現代の西部劇だ、と思った。

こっちがオリジナル版